[社会] 米国食料事情/牛肉をめぐる怖い話
はじめに
中国産食品の安全性が批判の的となっているが、これを非難する米国・日本の食品は安全なのか?米国在住の植田さんに牛肉の作られ方と安全性についてレポートして頂いた。米国はエネルギーと化学薬品を大量に消費する工業化された農業の本家本元。安く大量生産される牛肉の恐ろしい内幕が明かされる。(編集部)
安い牛肉の理由
戦前の米国では血の滴るステーキは高価な食べ物で、特別の祝い事でもなければ、一般の米国人の口に入るものではなかった。
しかし、今はどうだろう。私の教えている男子学生達に聞いたら、「ほぼ毎日ハンバーガーを食べている」という答えが多くて驚いた。「これほど安くておいしくて、腹を満たしてくれるものはない」と言う。毎日食べても破産しない安い「牛肉」というのはどのように作られているのか。生育過程に焦点をあて、「コストが下がった」理由とその意味について、探ってみたいと思う。
米国牛たちがせっせと食べているのは牧草ではなく、安価で高カロリーな玉蜀黍(トウモロコシ)飼料だ。1960年代、人間の労働に頼らざるを得なかった農業を変えたのは、安い石油による大型機械大規模農業である。石油とその産物である合成化学肥料(特に合成窒素)、農薬の大量投与により、安価な玉蜀黍の大量生産が可能になった。90年代には遺伝子組み換え改良種子によって、「スーパーコーン」が出現した。
スーパーコーンは害虫に強く、病気知らずで農薬にもへこたれない、背が高く、しかも密に植えてもしっかり結実する、すごい玉蜀黍である。この遺伝子組み換え玉蜀黍によって、その生産は飛躍的に伸びた。が同時に、大量の窒素や農薬が散布され、特に窒素は川や湖に流れ、海に到達、藻の異常発生は海の酸欠状態を招き、メキシコ湾海底に生息するひらめや蟹、海老が壊滅的にやられてしまったことも付け加えておこう。
値崩れを起こした余剰作物「玉蜀黍」を、加工食品としては飼育に最もコストと時間のかかる牛肉の飼料として与えることが考え出された。
薬品漬けの大量生産システム
それでは、肉牛の一生を追ってみよう。
牛肉生産の第一段階は、個人牧場が、農業関連大企業から、牝牛の妊娠出産と生後6ヵ月までの子牛の飼育を請け負うところから始まる。この過程は機械化が不可能で、大企業が行うにはコストがかかりすぎるので(1頭につき最低10エーカーの牧草地が必要)、個人牧場が請け負うのである。
体型・大きさ・玉蜀黍が消化できる胃袋・霜降りの最高のステーキになる遺伝子を持つ雄牛の精子が15ドルで購入郵送され、子牛の誕生となる。子牛は母牛と牧草地に放牧され、牧草を食べて、最初で最後の牛らしい6ヵ月を過ごす。その後 飼養場に移され、これを境に、牛は二度と新鮮な牧草を口にすることはない。飼料は玉蜀黍フレーク、獣脂、タンパク質補給物、ビタミン、化学合成ホルモン、合成尿素などからなり、牛は1日15sを消費する。うち4分の3は玉蜀黍である。
かくして、かつては牧草地で540sの成牛にするのに5年を要したが、現在は安価な高カロリー玉蜀黍飼料によって、最短1年で霜降り肉をたっぷりとつけた成牛の育成が可能となった。しかし、このような大企業の集約的牛肉生産形態は多くの問題を引き起こした。(ノースキャロライナ州立大学ローリー校講師 植田恵子)