[社会] 介護スタッフの熱意と苦悩
はたして受け止めているか
「今日は出勤できないよ。熱が下がらないんだよ。ごめんなさい」チームケアのリーダーである40代の女性から電話を受けた。彼女は、2年前に初期の子宮ガンを発症したことは聞いていた。その後は落ち着いたという話だったが、今年に入ってから発熱することが多くなり、私も気をもんだ。彼女はガンの進行を遅らせるためにインターフェロン(注1)治療を受けていたが、注射した日は勤務に支障が出るようにもなっていた。
彼女は私以外の管理職には自分の身体のことを伝えていなかった。それは、この施設の経営者に対する不信感からだ。介護現場の窮状を訴えても聞き入れない経営陣に失望していたのだ。春先に私は彼女と泣きながら話した。「もう、頑張らなくても良いのではないか」と。確かにスタッフが不足する介護現場は彼女抜きでは苦しい。私としては、いよいよこの日が来たかという思いで胸が一杯になった。
私にとって彼女は部下ではあるが、介護のキャリアでは先輩に当たる。東京都江東区にある老舗の特別養護老人ホームでの勤務を続けたが、病気のこともあり、引退するつもりだったという。だが、今の介護の現状を見過ごせず、思い余って今の職場に応募したという。下町気風で入居する高齢者のみならず、スタッフにも人気があった。
そんな彼女を、会社は好ましく思っていなかった。彼女が介護現場の窮状と不備を訴え続けたからだ。例えばスタッフ不足。どの介護施設でも共通する問題だ。採用担当の私は、そんな彼女の気持ちに答えるべく人物本位で採用を続けた。だから、きめ細やかな教育が求められるのだが、会社側は結果ばかり求め、現場の考えを聞き入れようとはしなかった。日々介護現場で奮闘するスタッフの疲弊感にも関心をもたず、事業計画の進捗ばかりにこだわり続けた。
それでも「介護が好きだから、諦めきれない」と彼女は言い、現場に立ち続けた。