[海外] イラク攻撃から5年/米軍毒ガスで重度障がい負った子供たち
イラクの子どもを救う会 西谷文和
空爆後、体が麻痺 車椅子生活に
イラク戦争から5年を迎えた3月20日、ブッシュ大統領は「イラクの治安は改善される方向」であり、「この戦争は正しかった」と開き直った。
「嘘つき大統領」の本領発揮だ。イラクの現状は「治安回復」どころか、内戦ドロ沼状態であり、「この戦争は全然正しくなかった」のである。
イラク戦争が大手メディアで報道されなくなって久しい。2004年の日本人拘束事件以後、この国ではイラク入りするジャーナリストに「自己責任」が問われることになり、大手メディアはサマワやバグダッドに派遣していた記者を引き上げた。米軍は徹底的に情報を管理するようになり、自分たちの犯罪を覆い隠していく。結果としてイラク戦争の実態がマスコミから消えていく。知られていないことをいいことに、「嘘つきブッシュ」が白を黒と言い含める。
そんな状況に我慢ならなかったので、私は3月3日から26日まで8度目となるイラク取材を敢行した。現地では連日のようにテロが発生し、米軍と民兵の銃撃戦が起こり、そして夫や息子を失った女性たちの嘆きが充満していた。
神経ガス弾使用?
イラク北部のスレイマニア市は、住民のほとんどがクルド人で、イラク国内では例外的に治安が安定した地域だ。したがってこのスレイマニアには、イラク各地から避難民が殺到している。スレイマニア市南方、二〇キロほどのところに「カラア避難民キャンプ」がある。シリアやヨルダンなどへ、国境を越えて逃げた人々は難民であるが、貧しかったり、病気で長旅に耐えられなかったり国境を越えられない人々は、「国内避難民」と呼ばれる。
荒涼とした大地を一本の国道が走っている。草木も育たない砂と石ころばかりの赤茶けた大地。そこに忽然と数百のテントが現れる。埃と異臭にまみれた異空間。それがカラア避難民キャンプである。
昨年一〇月に訪れた時は、四五〇人ほどの避難民がテント生活を送っていたのだが、その数はじわじわと増加し、今では七〇〇人程度が不自由な生活を余儀なくされている。つまりここでも「治安は安定している」という説明がウソであることがわかる。
数あるテントの一つに、車椅子に乗ったアプチサームちゃん(一三歳)がいた。激戦地、ラマーディーの出身だ。
二〇〇四年七月、アメリカはラマーディーに集中砲火を浴びせた。アプチサームちゃん一家はラマーディーの名家で、広い敷地の実家に町の有力者が集まった。彼らはアメリカと徹底して戦うことを決意し、いつしか自宅が武装勢力の拠点となっていった。
二機の戦闘機が自宅に向かって飛来する。猛烈な爆撃、実家は徹底的に破壊された。その空爆後、アプチサームちゃんに異変が生じる。当時九歳だった彼女の身体が、だんだん麻痺していき、学校に通えなくなり、ついには歩けなくなった。言葉もしゃべれず、車椅子の重度障害児になってしまったのだ。
父親はアプチサームちゃんのIDカード(身分証明書)を持っていた。「これを見てくれ。この娘が五歳のころの写真だ。全く健康だろ?娘は小学校に通っていたんだぜ。今では立ち上がることも、しゃべることもできない。なぜなんだ!」。
米軍は「神経麻痺ガス弾」を使ったのではないのか?
インタビューの最後、アプチサームちゃんの父親にこの五年間をどう思うかと尋ねた。
「俺たちラマーディーの人間は、アメリカの空爆で全てを失った。家も財産も健康も…。ブッシュよ、ここにテントを張って住んでみろ!もしこのテントで生活できるのなら、俺たちも生活を続ける。無理なら、元の生活に戻してくれ!」