[海外] アルゼンチン/藤井枝里×廣瀬純 対談
はじめに
アルゼンチンの社会運動から学びうる教訓は何か?廣瀬純さんと藤井枝里さんに対談をお願いした。廣瀬さんは、「日本の社会変革も、グローバリズムに曝される周辺農村部にこそ可能性がある」と語り、藤井さんは、「日本の運動は、日常生活から切り離されている感覚がある。社会運動のプロセスに喜びや愛が必要」という。
新自由主義政策で社会が徹底的に破壊され、経済破綻したアルゼンチンは、2001〜03年の激動期=社会運動の高揚を経て、「左翼」キルチネル政権を生み出した。
一方、小泉・安倍政権による新自由主義改革で日本も、二極化が劇的に進み、雇用破壊を主な特徴とする貧困が蔓延。社会運動側の戦略・戦術が問われている。
国家の支配システムである代表制民主主義を批判するだけでなく運動内部に代表制が浸透してくるのも拒否するアルゼンチンの運動体。また運動の高揚期を過ぎても完全平等賃金を維持する自主管理企業。こうした「過剰さ」こそ運動の「おもしろさ」だ。(編集部)
競争社会より豊かな協同社会
廣瀬…まず、今回のアルゼンチン滞在で最も印象に残った社会運動を教えて下さい。
藤井…コルドバの西北部に散在する七団体ほどが「コルドバ農民運動」というネットワークを作っています。私は、九日間民家 に泊めてもらいながら組織化活動に参加しました。
まず驚いたのは、普通の農家のおじちゃんおばちゃんが家族ぐるみ・地域ぐるみで活動に参加し、社会変革について活き活きと語っていたことです。
彼らは、やぎや鶏を飼って生計を立てていますが、多国籍アグリビジネスによる土地の取り上げの脅威にさらされています。ある日突然、企業弁護士が土地の所有権を示す書 類を見せて、農民に立ち退きを迫るのです。
アルゼンチンでは、二〇年以上居住した土地にはその所有権が認められるのですが、農民にはそれを証明するものがありません。そういう法律や権利について無知な農民は、土地を明け渡してしまうのです。組織化されていない農村は、こうして容易に破壊されるため、農民自身が学習し団結し土地と権利を守ろうとしています。
また、水道が民営化され、貧困な周縁地域は水へのアクセスがないまま取り残されています。井戸から出る水は塩分濃度が高すぎて飲み水には使えないため、水の確保が大変なのです。農民運動は、水の民営化に反対し、安全な水への権利も要求しています。
また、村の寄り合いは、パン作りを学んだり保健衛生について講習会を開いたりする学びの場です。土地に関する権利や女性の人権について学び合います。ゲームを取り入れ、子どもも含め全ての人が参加し、発言できるよう意識的な工夫がなされています。
薬の共同購入や生産物販売のための共同キャンペーンなども行っており、協働することによって生活が向上するという実感が、参加者を増やしています。
私が参加した一〇家族ほどのコミュニティの場合、カトリック教会の運営する共同食堂に来ていた女性たちが、数人ほどで集まり始めたのが組織化のきっかけだそうです。彼女たちが農村を出て集会などに参加し、そこで都市の若者たちと出会って現在のコルドバ農民運動へと広がっていきました。
コミュニティどうしのネットワークも緊密で、先例を作った村落の実績を学んで「じゃあ、自分たちも」という学び合いや、「みんなで考えて解決策を見つけ出す」というスタイルが定着しています。
私のなかで「運動は非日常」、生活している日常から切り離されている感覚がありました。ところがコルドバの農民は、お隣さんとの何気ないお喋りの中に運動があり、日常生活がそのまま運動のようで、発想の転換を迫られました。