[コラム] 自衛隊給油活動再開/津田光太郎
進行している戦争=対テロ戦争から目をそらすな
中国脅威論
福田政権はこの一月に、衆院の三分の二の再議決という方法で新法・補給支援特措法を成立させ、二月二一日、ついに海上自衛隊は、インド洋での給油活動を再開した。マスメディアは、もう過去の話題だと思っているのか、ほとんど取り上げようともしていないし、あえて言えば右からも左からも、まともに議論しようという空気もない。
米国の安全保障戦略、とりわけ米軍再編に日本が積極的に協力するよう論陣を張っている文芸春秋やら産経新聞、あるいは「新しい歴史教科書をつくる会」の流れまで含めて、議論の成り立ちをつくっているのは中国脅威論だ。こう書くと、まだ何も言わないうちに誤解されることが多いのだけれど、私は「中国が脅威となることなど無い」と言っているのでも、まして米国のアジア戦略・兵力構成の基本方針が「緩やかな対中国封じ込め」であることを否定しようとするものでもない。
この米国の対中国というむしろ政治的な封じ込め戦略の大枠だけから見るなら、インド洋での給油などとるに足りない枝葉の問題だということになる。議論しようという空気もないのは、右も左も、多くの人がそう思っているからではないかと思う。この見方からでは進められている米軍再編計画の多くが説明不可能になるばかりか、何よりもそれは、現在目の前で行われている戦争から目をそらすことだと自戒したい。
非対称脅威論
例えばアメリカのミサイル防衛(MD)構想。日本も含め他地域を盾にしてでも「米本土にミサイルが届かないようにする」というこの構想に、どんな理屈で協力を根拠づけるのか、いまだに不思議だが、こういう説明を聞いたことがある。いわく「テポドン発射問題のとき、日本の米軍はこの事態に驚き、兵員に非常招集をかけた。戦闘機で北のミサイル発射台を破壊する選択もあったろう」「そうなったら大変だ」云々。
この想定と立論のおかしいところは、まず第一に米軍は驚き慌ててミサイル発射台を攻撃しにいくことなどない、ということ。米軍が攻撃するならそれは、まず世論への宣伝工作ほか、主導権を完全に確保して、用意周到に作戦を敢行する時であって、この間の米軍の戦闘活動は、すべてそういうものだった。
そして第二に、米軍が想定し、危険視しているのは正規軍のミサイルではない。核が国家の枠を抜けて非正規軍に使われる可能性が、想定の機軸にあるということだ。アメリカの軍事戦略立案者たちは、ここで想定される脅威を、国家単位の伝統的脅威に代わって登場した新しい脅威、「非対称脅威」と呼んでいる。そしてこの「非対称脅威」には抑止理論は通用せず、可能性を感じたら芽のうちに先制攻撃で叩くしかないのだという。
インド洋の給油活動で協力継続を決めた対テロ戦争は、米軍がまさに「非対称脅威」を取り除くための長期の戦争と位置づけるものだった。ただ、今米国の安全保障をめぐる戦略は、米軍再編の骨格を含めて結論が出ず、議論の渦中にあるのも事実だ。出口の無いことがはじめからわかっているこの戦争を、私たちは一日も早く止めさせたい。