[コラム] 深見史/「とちおとめ」は苦くなった…
「技能実習生」制度の嘘は続く
栃木県内の苺農家で働いていた中国人青年一五人が、現在、未払い賃金の支払いを求めて雇い主相手に団体交渉を行っている。
彼らは全員、「先進国・日本の優れた技術を発展途上国に技術移転する国際貢献制度」としての「技能実習制度」の「実習生」である。
ある町会議員が経営する大きな苺農家は、五人の中国人青年を「技能実習生」として雇用していた。昨年一二月のある朝、いつものように苺の包装の仕事を始めようとした青年たちの前に、突然、五人の警備員が現れた。農園主は中国人通訳を通して「今年は苺の出来が悪いので、仕事を続けることができない」「中国に今日帰ってもらう」と宣言、警備員がマンツーマンで青年たちに付き、成田空港に「護送」した。
空港ターミナルで無理やり彼らを搭乗させようとしているところへ、青年たちが所属する東京の労働組合スタッフが到着、警察も出動する大混乱となったが、青年らは無事労組に保護された。
青年たちには未払い賃金が一人あたり三五〇万円以上あった。
団体交渉で、労組に対して雇い主はこう言い訳した。
「不作で経営困難だったから、賃金が払えないので帰国をお願いした」 「私らは百姓だから、法律なんか知らなかった」
彼は町議選にトップ当選した地域の有名人であり、豪華絢爛な「いちご御殿」に住んでいることは誰もが知っている。「経営困難で賃金が払えない」のではなく、「送り返せば金を払わなくてすむ」と考えたのは明白だ。
中国人青年たちは一年間に三六五日、朝五時から夜九時まで働いた。「研修生」時代は「研修手当」として月額五万円、残業時給は三五〇円だった。「技能実習生」となってからは「月給」一三万円、残業時給五〇〇円となった。携帯電話やパソコンの使用、外出、外部との接触を禁じられ、パスポート、通帳を取り上げられ、通訳を名乗る人物から数万円から十数万円の「管理費」を取られた。これらは「外国人研修生・技能実習生」のきわめて普遍的な状況である。
アメリカ国務省は二〇〇七年人身取引報告書の中で、日本のこの制度を「強制労働」と指摘しているが、日本政府が反論できないのは当然だろう。