[コラム] 深見史/街頭に繰り出す差別者たち
奴隷労働させられる外国人研修生
先々月、栃木県宇都宮市の繁華街を数十人のデモ隊が練り歩き、署名活動を行った。彼らは「日本人よ!不逞シナ人の横暴に立ち上がれ!」と書かれた横断幕を持ち、以下のようなチラシを撒いた。
「昨年六月、職務質問された不法滞在のシナ人が石灯籠を振り上げ、鹿沼警察署の警官に襲いかかった。再三の警告にも拘わらず詰め寄るシナ人に警官は発砲。凶悪犯は死亡し、他に波及したであろう市民への危険を阻止した。ところがこれに対し、四川省に住むというシナ人家族は栃木県を相手取り、何と五千万円の賠償を求める民事裁判と、この鹿沼署の警察官を『特別公務員暴行陵虐致死罪』で刑事告発した。(中略)背後でシナ政府が、日本侵略政策の一環として反日弁護士グループを操っているのは明々白々だ。この警察官を見殺しにしてはならない。感謝と激励の声を届けようではないか。国民の生命、安全、財産を守るために我が国警察官は、躊躇せずこの凶悪シナ人を射殺した。(中略)日本人よ、これ以上シナ人になめられるな! この警官をシナ・中共の内政干渉から守ろう。」(原文のまま)
彼らのいう「シナ人凶悪犯」とは、外国人研修制度の「研修生」として来日し超過滞在者となった中国人青年である。
彼は二〇〇四年、研修生として岐阜県の建築会社に配属された。中国から来る多くの研修生がそうであるように、彼もまた来日にあたって莫大な借金を作った。一年間の「研修」が終わると、二年目からは労働法が適用される「技能実習生」になる。それを期待していた彼だが、労働者である技能実習生になっても残業手当は支給されなかったという。
このままではいつまでたっても借金さえ返せないと考えた彼は、来日二年目に新たな仕事を探すために事業所を逃げ出した。その彼を、警官は、職務質問から逃げたとして撃ち殺した。警棒を使用することもせず、威嚇射撃をすることもなく、五メートルの至近距離から腹部を撃ったのである。彼が「振り上げた」とされる「武器」は、野菜栽培用の竹の棒だった。
中国で二人の幼い子とともに彼の帰りを待っていた妻は、彼が殺されて一年以上経った今年八月、大学病院の霊安室で冷凍されていた夫の遺体と、三年ぶりの対面を果たした。
研修制度は「技術移転という国際貢献」ということになっているが、それは「誰もが知っている大嘘」である。原則「外国人排除」を国是とする日本が、安価単純労働力不足を補うために、「日系二世三世の就労許可」とともに導入した苦肉の策である外国人研修制度は、当然ながら多くの争議を生み、逃亡、暴行傷害、殺人など悲惨な事件の原因となった。
研修生は労働者ではないので、賃金はない。生活費として「研修手当」が支給されることになっているが、それは通常、月額一万円から五万円という、常識では考えられない超低額である。外国人研修生を守る法はなく、彼らは義務だけを課せられた入管法の網の中で奴隷労働に従事させられている。奴隷労働から逃げ出した者は「凶悪犯罪者」として撃ち殺される。これが「移民のいない」日本の現状なのだ。
二九日、「警察官違法発砲渉外致死国賠訴訟」第一回口頭弁論が宇都宮地裁で開かれる。