[海外] 韓国・北朝鮮/現地で見た南北首脳会談レポ
──かりの会 若林盛亮(ピョンヤン)
軍事境界線を徒歩で越えた二人
一〇月二日、韓国ノ・ムヒョン大統領は軍事境界線の南側で車を降り、境界線を歩いて越え、訪北の第一歩を記した。ノ大統領は、「十年前には想像すらできなかったことだ」と述べた。
私は一八年前の光景を思い出した。ソウルの外国語大生だったイム・スギョン(林秀卿)さんは、韓国の学生組織、全大協(当時)代表として「北」を訪れた「南」の学生だ。初めて「北」を公式訪問した「南の民間使節」として、一九八九年夏にピョンヤンで開かれた世界青年祭典に単身参加し、韓国民主化と祖国統一を世界に訴えた。彼女は、軍事境界線を越えて北から南に帰り、即刻、国家保安法違反で逮捕され、懲役刑に処された。
時は移り二〇〇七年。かつての闘いを担った「三八六世代」を背景にした韓国大統領が、その歴史を背負って軍事境界線を歩いて越え、「北」に来たのだ。
現地と日本の「温度差」
私の息子が通うピョンヤンの中学校では、「共同宣言」に盛り込まれた白頭山観光のための韓国からの直行空路開設や、南北縦断鉄道で北京オリンピックに南北の応援団が行くといった話題に花が咲いた。
知り合いの東(漢方)医師が、「ノ大統領の夫人が東医科学研究所(東医病院)に参観に来るから、今日はみんなで大掃除だ」と張り切っていたことなど、端からみても微笑ましかった。民衆レベルで民族の未来に希望を膨らませるのはうらやましい限りだ。
七年前の首脳会談の熱気が、歴史上初めての南北和解の時代到来を象徴し、「わが民族同士」という理念の一致を見た熱気だったとすれば、今回の首脳会談のそれは、「実務的」レベルでそれをより具体化、現実化した「成熟した熱気」だったと思う。
事実、「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」には、理念・政治レベルにとどまらず、軍事・経済・文化全般にわたる南北和解・協力の事業が実に具体化されている。ワタリガニ漁労海域をめぐり軍事衝突の絶えなかった西海の海州市とその周辺地域に「西海平和協力特別地帯」が設置され、共同漁労区域ができ、開城工業団地に次いで新しい経済特区もできる。