[社会] 「介護は金稼ぎ」公言する経営者
「ギリギリで法に触れなければいい」
「さぁ、稼ぐぞ!」。この夏、アルバイトとして東京都板橋区にある訪問介護事業所で過ごした私は、毎日この言葉を聞かされた。浜松市から上京してきた事業所責任者は、「介護は金を稼ぐ方法だ」と私に囁き続けたのだ。
「介護業界で有名な人物が携わっている面白い事業所」だと私が紹介されたのは、三洋電機が新規に介護事業に乗り出すための子会社だ。今振り返っても正に「介護でお金を求めるだけ」の事業所だったと思う。
六月中旬、私は板橋区にあるその事業所を訪た。「介護事業所」というには最初から違和感があった。面接に現れた責任者は、日本拳法で鍛え上げたという体格でありながら、頭髪が薄く皺の深い顔立ちで、とても私と同世代とは思えない。聞けば、これまで一家で静岡県内に多くの介護事業を立ち上げたという。その実績からセントケア社など介護サービスの大手企業から一〇〇〇万円近い給与の提示があったが、「もっと稼げるかもしれない」とこの会社に入社した。「介護で金を稼ぐ」と宣言した彼は、私に介護業界の暗部をまざまざと見せつけた。
特に印象深かったのは七月の参議院選挙だ。彼は勤務中にもかかわらず選挙活動をした。応援していたのは、自民党候補・ かわせ(河瀬)葉子だ(注)。投票日が近づくと彼は、スタッフに「介護保険のために、介護業界にいるなら、河瀬さんに入れて欲しいなぁ」と言い続けた。
同じ介護業界にいる彼の父親がかわせ葉子の後援会幹部らしく、父親からというより、業界人として選挙活動を強いられていた。彼は、私にも『かわせ葉子』の名前を言い続けたので、思わず「介護保険制度の問題を考えるのは大事です。しかし、それ以上に憲法九条の問題を深く考えたいと思います」と切り返した。すると彼は、二度と私に語りかけることはなくなった。
仕事も選挙も忙しい日が続き、深夜まで残業していた私に、突然彼が話しかけてきた。「コムスンは法に触れたからいけないんだ。ギリギリで法に触れなければいい。介護保険制度はこのまま続けばいい。制度が存続しないと事業者が稼げなくなっちゃうからな。お前もそのことをよく考えろ」。
※注)自民党比例区から出馬、落選。ニチイ学館のケアマネージャーとして勤務しつつ、事業者連合団体の日本在宅介護協会の活動に従事。介護保険制度の堅持と団体活動の発展が立候補の趣旨であった。ちなみに文中の責任者の父親は日本在宅協議会の幹部である。