[コラム] 深見史/「戸籍がない子に戸籍を!」ではなく制度の撤廃を
戸籍なくても住民登録を!
今年、民法第七七二条問題も含め、戸籍に関わる報道が多く見受けられた。その多くは戸籍実務に関与する行政職員や法務省に対する批判を主にしたものであり、戸籍があたかも人格に深く関わる「大切なもの」であり、人間の資格を決定するほど「重要なもの」であるかのような文脈で扱われた。「戸籍がなければ法的にはこの世の中に存在しないことになる」などの、無知からだけではないでたらめ報道が、そうした風潮を作ろうとしてきた。
もちろん戸籍がなくても人は存在している。そもそも外国籍の人間には戸籍などというものはない。日本人と結婚した外国人でも「入籍」などはありえない。日本国籍者が戸籍がないことで不利益をこうむるのであれば、戸籍制度のほうに問題があるのだ。戸籍がないから困るのではなく、戸籍制度があるから困るのだ。
行政書士等による戸籍謄本等の不正取得事件は、戸籍が「差別商品」としての価値を持つものであり、差別を維持拡大するものであることをあらためて示している。戸籍が作る「○○家」「長男」「跡取り」などのみみっちい出自にアイデンティティを求める人々が、こうした差別を拡大しているのは残念ながら事実だ。
さて、出生届には、「子の氏名」の隣に「父母との続柄」欄があり、「嫡出子」「非嫡出子」の別を「レ点」チェックすることになっている。このチェックが戸籍に反映され、「嫡出」「非嫡出」の別が一目瞭然となる。非嫡出子は、民法九百条四項(嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とする)によって、歴然とした差別を受ける存在となる。人生の始まりのときに、人はこうして選別されるのである。
この「非嫡出子」記載について、国連の「児童の権利委員会」は「公的書類において婚外子としての出生が記載されることをとりわけ懸念」し、「出生登録における差別や『非嫡出』なる差別的用語を法律及び規制から撤廃するために法律を改正するよう」勧告しているが、日本政府は無視し続けている。
二年前、東京都世田谷区の介護福祉士・菅原和之さんは第二子の出生を世田谷区役所に届けた際、「レ点」チェック欄を未記入にした。
彼は重度障害者の介護を仕事としている。「不良な子孫の出生を防止する」という優生保護法の思想に怒りを感じてきた。「嫡出」「非嫡出」の記載は、優生保護法と同じく人を生まれながらに選別するものだと考えた彼の「嫡出・非嫡出の別非チェック」届出を、区は不受理処分にし、また「戸籍のない子どもの住民登録は出来ない」と住民票の不記載処分をも行った。
この処分に対して、菅原さんらは異議申立・要望書提出などを行い、子の住民票記載を求めたが、世田谷区は「住民登録はできない」と拒否。今年六月二六日、菅原さんは、出生届不受理を理由に住民票の記載をしない処分は、住民基本台帳法八条、憲法一四条等違反であるとし、子の住民票の作成の義務付けを求めて東京地裁へ提訴した。第一審では原告勝訴、住民票作成を義務付ける判決が下りた。
出生に関わる情報を異常なほど詳細に蓄積した戸籍は、世界に類を見ない超管理制度だ。韓国が戸籍に見切りをつけた今、日本の人権意識の低さはさらに際立ってきた。人間関係をお上に把握されることを当然としてしまっている私たちは、自分自身を根底から振り返ってみる必要があるだろう。自分を管理されることに鈍感な者が、他人の人権に敏感であるはずがない。
控訴審は九月に開始されたものの、原告の証人申請は却下され即日結審した。東京高裁判決は一一月五日。