[社会] 「防犯」装い静かに広がるハイテク監視システム
はじめに
山口県美祢市にある「美祢社会復帰促進センター」は、今年四月からPFI方式によって運用が開始された日本初の「刑務所」である(収容定員・男女各五〇〇人/国の職員・一二三人/民間職員・約一八〇人)。
刑務所管理についての全ての行政責任はこれまで通り国が担うが、施設の設計・建設から管理運用は民間によって運用されることになっている(二〇二五年三月までは、美祢セコムグループが運営する)。
「地域との共生」「民間のサービスを活用した『矯正処遇』」をスローガンに、同施設は「コンクリート塀や鉄格子のない刑事施設」「位置情報把握システム」をセールスポイントに挙げている。
これこそ、ハイテク機器を使った受刑者管理として注目されているシステムで、SFの世界でしか見られなかった「ハイテク管理」の究極の姿である。
「開放感」実現の裏で無線の監視網
「従来のような特有の壁がなく、すべてフェンスで外部との見通しが利き、開放的な感じ」「居室については簡素・清潔で、しかも原則個室」「衣服については、従来の衣服と異なり、大変明るく綺麗」(山口県弁護士会が今年四月一二日に行った「美祢社会復帰促進センター」視察レポートより)。
この「明るさ・清潔さ・開放感」を実現している大きな要因は、無線タグを使って全員の位置をリアルタイムで二四時間、常に把握する「ハイテク管理システム」にある。
受刑者・刑務官・来訪者には、大きめの名札になっている無線タグがつけられる。これを約五〇〇台の無線LANアンテナで受信して、各人の居場所を把握するわけだ。
受刑者のものは、取り外しできないように受刑者服の胸ポケットにワイヤーで取り付けられている。また、受刑者同士で服を交換することがないように、指静脈認証(銀行・郵便局のATMでも使用されている)による受刑者の識別も行われるという。
また、無線タグの付いた服を脱ぎ捨てると、「一定時間位置移動がない」として警報ブザーが鳴る仕組みになっている。もちろん、施設内には赤外線センサーや監視カメラが、死角なく設置されてある。
同システムで房内からの出入り時は、中央警備室から遠隔操作で施錠・解錠が行われ、受刑者がセンター内で移動する際も、原則として刑務官の付き添い・監視が不要になる。
この「位置情報把握システム」は、法務省からの入札条件として指定された。「美祢社会復帰促進センター」入札時の説明で法務省は、「PFI手法による新設刑務所の整備・運営事業基本構想」として、入札の条件として「施設警備については、電子タグによる位置情報把握システム、管理センターからの扉の遠隔開閉など、ITを活用した機械警備を導入する」と明記している。
山口県弁護士会は、二〇〇五年度中国地方弁護士会連合会大会での山口県弁護士会提案議題の中で、この無線タグによる管理システムの問題点を次のように指摘している。
「前記ICタグによる集中監視システムは、受刑者を画面上などで『点』のように扱うことになり、人間味の伴わない『物』として視るような感覚に陥り、『人』の尊厳を軽視することにならないか」(「PFI刑務所に対する評価及び危惧される問題点」より抜粋)
また、「美祢社会復帰促進センター」の入所条件(男性についてのみ)は、@初犯者であること、A殺人・強盗殺人・強盗・強姦等の犯罪ではないこと、B執行刑期が懲役一年〜五年程度、C概ね二六歳〜六〇歳未満、D心身に著しい障害がないこと、E集団生活に適応できること、F引受人がいることと、かなりハードルが高いものになっている。これをもって、受刑者の更なる差別抑圧的処遇につながることも考えられる。
法務省は、このシステムのメリットとして、「刑務官の業務負担の軽減」「警備業務の効率化」を挙げている。稼働して半年になる「美祢社会復帰促進センター」でのシステム運用の評価はまだこれから、ということだが、法務省としてこういった「ハイテク管理システム」をさらに推進していく方針だ。