[コラム] 山村千恵子/堂々とマイノリティ
多様なマイノリティが、共鳴しあうときが来た
もう十年以上も前の話。帰化する気はないのかという私の問いに、在日の青年が言った。「在日というおトクな立場を捨てる気にならない」と。
その意味がその時は分からなかった。もちろん、今も彼の意図通りに理解しているかどうかは分からないが、私なりの解釈がある。マイノリティを逆手に取れば、個性という希少価値が生じると。
たとえば姜尚中さんが在日でなかったとしたら、今ほど輝いていただろうか。頭も顔もいいし、理論展開が明確で話術も優れているのだから、それなりに頭角を現していたろう。だが「在日の視点」があるからこそ、読み手聞き手のハートをゆさぶるのではないだろうか。
コリアタウンも、ただの商店街ではないからこそ、人を集めることができる。他地域や韓国からも客が来るし、ことあるごとにマスコミも押し寄せ、無料のコマーシャルをしてくれる。
今回の参議院議員選挙では、マイノリティ候補が活躍した。薬害をなくそうと訴えた川田龍平さんは当選したし、落選ではあるが、レスビアン候補が健闘した。尾辻かな子さんだ。大政党である民主党の公認を取り、四万近くの得票があった。「あらゆる社会的少数者ひいてはすべての人が生きやすい多様性のある社会を作りたい」という訴えに共鳴する人が、これだけはいたのだ。
ヨーロッパでは行われても、日本ではありえないと思われた「レズビアン&ゲイパレード」も定着した。八月一一日、第六回東京プライドパレードが開催された。主催者によると「レズビアンであることを公表した元大阪府議の尾辻かな子氏、性同一性障害当事者で世田谷区議の上川あや氏、社民党党首の福島瑞穂氏、衆議院議員の保坂展人氏、参議院議員の川田龍平氏を含め、隊列に参加した人数は過去最高の二八〇〇人。一五〇〇人の沿道応援者を含めると参加人数は四三〇〇人余りとなったそうだ。
アメリカの大統領予備選挙では、民主党候補の席を、黒人男性のバラク・オバマと白人女性のヒラリー・クリントンが争っている。どちらが勝っても、民主党政権になれば、アメリカ建国以来始めて、白人男性以外の大統領が誕生することになる。
ずいぶん昔のことになるが、井上光晴の『地の群れ』という小説を読んだ。戦後まもなくのこと。ヒバクシャ・ブラク・チョーセン・タンコウなど、地を這うような生活をするもの同士が、互いに差別しあい、虐げあう姿を描いていた。三すくみになって、互いに傷つけあい、より大きな悲惨にもつれ込む、出口のない地獄絵だった。悲しいけれど、人間の本性の一面を表している。
また、ワーキングプアーの閉塞感に、「このまま死ねばただのフリーターの死、戦争で死ねば英霊だ。憲法九条を変えて、戦争のできる国にした方がいい」などと、言い始めた若者たちもいる。格差・貧困や閉塞感を「平等に訪れる不幸」によって解消しようとする誘惑だ。
大勢に従わない人間を排除する動きもある。異論を述べると「空気が読めない」とあしらって排除するムードだ。
そんな中、個々に課題は違っていても、社会的弱者という同じ立場に目覚め、共感を行動に移し始めたことは頼もしい。
我々のほとんどは、何らかの点でマイノリティだ。女性・貧困・障害・低学歴、それらを自覚して、弱点を個性にすれば武器になる。多様なマイノリティが共闘すれば、社会的弱者は強者になる。