[社会] 訪問ヘルパー/忘れられやすい「相手の理解」
──遥矢当
「しんどいんやろ?」。彼女がうつむいた時、訪問ヘルパーとして私はつたない関西弁で声をかけてみた。彼女は私を見上げ、「そやな・・・」とつぶやいた。思ったとおりの返事だ。
前の職場を辞めて以降、私は、介護関連の短期アルバイトを続けている。現在は、東京都板橋区にある介護事業所だ。その日は、板橋区内の都営住宅に住む一人暮らし・七〇歳代女性の皮膚科の受診に付き添っていた。
普段どおりの標準語で彼女に接していたが、彼女の態度が硬くなっていた。受診に向かう途中のタクシーでも、運転手の態度に不満を述べ続けた。私が、男性ヘルパーだから、という理由だけでもなさそうだった。
皮膚科の待合室で彼女は話を続けた。「あんた、言葉になまりがあるん?」と聞いてきたので、笑いながら「兵庫に住んでました」と答えた。彼女は目を見開いて、「私も神戸なんよ!」と嬉々として答えてくれたのだ。私は二年程前、神戸で暮らしていた。
事業所の情報によると、この女性は自己主張が強すぎるという理由で、ケアマネージャーから嫌われ、何人もケアマネージャーが変更となっていたいわく付きの女性であった。話では、老後が不安となり六〇歳を過ぎてから神戸市須磨区より、都内に住む知人を頼って上京してきたとの事だった。彼女は経済的に困ってはいなかったが、近隣住民とコミュニケーションができず、諍いが絶えないという。
私も、正直「難しい」という先入観をもって訪問した。ヘルパーの責任者からは「トラブルが起こるなら断っても構わない」とも言われていた。
皮膚科の診察は、全身に赤く広がる湿疹の処置であった。湿疹の原因は、ヘルパーによる入浴介助の際にトラブルとなり、入浴したいという気持ちはありながらも、ヘルパー介助を拒否し、入浴機会を失ったことだという。「未然に防げた疾患だ」、と私は内心思った。帰りのタクシーに乗り込む前に、無事診察が終わり、彼女は全身の痒みが和らいだからか、「意地があるねん!」と、元気な?抱負を語ってくれた。