[海外] アルゼンチン/環境問題と新自由主義
水は商品ではなく権利
五月一四〜一五日、「アメリカ大陸における民衆のオルタナティブを目指して―水・土地・環境を守るために」というスローガンのもと、TINKUYAKUUという集会がコルドバで開催されました。私は「環境に優しく」とか「地球を守ろう」といった類の、いかにも先進国的な発想の環境保護キャンペーンには偽善的な印象を感じてしまうので、この日も少し懐疑的な気持ちで会場に入りました。
ところが、そこでまず気づいたのは、環境問題を明確に新自由主義の枠組から捉え、その対抗軸を構築するという姿勢が貫かれているということでした。
「水は商品ではなく権利だ!」「水道事業を利用者・労働者による民主主義的管理に基づく国営に!」という主張が様々な運動から出され、水をイメージさせるバケツとゴムホースを持った人々のデモが行われました。
環境資源や生命までもが商品化され、農村の人々は土地を追われ、自然は収奪され破壊される…。
こうした新自由主義のサイクルに対し、彼らは主張します。「我々は、皆で新たな力を構築することを目指している。それは民衆の力、下からの力であり、家族や地域の人々が参加する場所である。それは自主管理と自律性に基づくオルタナティブな政治をつくるだろう」
アルゼンチンでは、民間企業による水道事業の不徹底な衛生管理によって伝染病が流行し、多数の死者が出たという事件を背景に、一八九〇年代からは水道分野における国家の責任が追及されていました。一九一二年に「国家衛生事業」という機関が設立され、その後もレベルの高い公共衛生水準を誇ってきたといわれます。
水も土地も奪った多国籍資本
しかし六〇年代、様々な分野の国営事業に外国資本が参入する道が開かれ、七〇〜八〇年代に国際機関から貸付けられた膨大な融資には、将来的な公共事業の民営化が条件付けられていました。
コルドバでは、七五年から地方公営企業が水道事業を担っていましたが、世銀や米州開発銀行といった国際金融機関からの強い圧力と、投資不足による公共サービスの評判の悪さが民営化への流れを後押しすることになりました。
そして民営化に反対していた労働者が排除され、フランス資本のスエズ社を中心とするコンソーシアム会社=アグアス・コルドベッサスによるコンセッション契約が結ばれたのが九七年のことです。スエズ社といえば、同じくフランス資本のヴィヴェンディ社、イギリス資本のテームズ・ウォーター社と共に、世界の水市場に君臨する三大多国籍企業のひとつです。
スエズ社は一ペソも投資せずに水道設備を引き継いだにもかかわらず、契約に含まれていた州政府への支払いも果たさず、その未払い総額は四千万ペソ(約一六億円)に上っていたといいます。
ところが二〇〇五年、州知事はスエズ社の負債を帳消しにし、水道料金の五〇〇〜七〇〇%の値上げを容認する法案を可決させました。こうした横暴に対して住民の間で起こった不払い運動が社会問題にまで発展し、スエズ社側もこれでは儲からないということで、昨年撤退を表明するに至っています。
現在、地元のロジオ社が水道事業を引き継いでいますが、特に農村部や貧困地区の水へのアクセスに関する問題はいまだ解決されていません。
また土地に関しては、ここ一五年、大豆産業を筆頭に巨大アグリビジネスによる土地の一極集中が加速度的に進んでいます。農村部の生産者家族八二%が一三%の土地を耕している一方で、たった四%の農畜開発業者が六五%の土地を所有しているのです。 (藤井枝里)