[社会] 貧困にあえぐシングルマザー
はじめに
母子家庭の八割が働いているにもかかわらず、その半数がパート等非正規雇用。三分の一の世帯が年収一五〇万円以下という現状に、貧困にあえぐシングルマザーの現状がみてとれる。NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・関西・理事の中野冬美さんに、母子家庭の現状を聞いた。
希望がなければ生きていけない
「朝起きて、悪夢のようにぞっとするのは、子どもに熱がある時です。その時に子どもを預かってもらえるところがない」――中野さんはこう語り、利用できる病児保育がない現状を嘆く。数年前にも、パチンコ店でアルバイトをしていた母親が、子どもが発熱していたが欠勤するわけにいかず、結果として子どもを亡くしてしまった事件が起きたという。
「充実した病児保育か、あるいは仕事を休んでも給料が下がるなどのリスクを負わない職場環境があれば、このような事件を防ぐことができる」と中野さんは指摘する。
仕事を休むか、ほかに子どもの世話を頼むか。その選択肢は限られている。保育園でも、子どもが発熱していると登園させてもらえないところがほとんどだという。病児保育を併設している医療機関や保育園は少なく、病児保育NPOも立ち上がっているが、まだまだ利用しづらい。中野さんによると、二一%の母親が「子どもを一人で眠らせておく」という。行政が病児保育を支える制度作りを担う責任があるだろう。「就労支援と子育て支援の二つがないと、母子家庭はやっていけません」(中野さん)
しんぐるまざぁずふぉーらむにいちばん相談が多いのは、「プレ」シングルマザーと呼ばれる、離婚協議中など母子家庭になる前の段階にある母親たちだという。「母子になってもやっていけるのか?子どもの保育園や学校は?仕事は?そして離婚までの交渉をどのように行うか?」など、ひとつひとつ解決していかなければならないハードルがたくさんある。
また、いちばん大変な状況にあるのも「プレ」だという。公的には母子家庭でないため、行政のサポートが一切なく、児童扶養手当を受けることも難しい。DV(家庭内暴力)の被害者ではない場合で児童扶養手当を取ろうとすると、遺棄扱いしかない。つまり、一年間まったく音信不通の状態でなければならず、電話の一本、ハガキの一葉でもあってはならない。保育について最も困るのも、やはりプレシングルマザーだ。保育園の定員が絶対的に少なく、待機児童が多い現状の中で、母子家庭の入園はある程度優先されるのだが、「プレ」はその対象外だ。子どもを預けられないから就職活動さえできない。