[海外] パレスチナ/薄明かりの中、検問足止めで赤ちゃんが死亡
ギデオン・レヴィ (4・7 ハアレツ電子版)
瀕死の赤ちゃんを見てみぬふり
カレドは二〇〇六年一〇月九日ラマラの公立病院で、体重四キログラムを超える健康な赤ちゃんとして生まれた。しかし、生後一ヶ月あたりから呼吸困難と痙攣の発作が始まった。
ちょうど生後五ヶ月にあたる三月九日、カレドはまた発作に襲われた。サナはダウードを起こした。真夜中過ぎだった。ダウードは村で一番早く走るメルセデスを持っている友人に電話をした。友人は五分でやってきた。五分の間に夫妻はミルクや薬などを鞄に入れて病院へ出かける用意をした。今のところ発作は激しくない。一〇日前の発作のときは二〇分でラマラの病院へ行けたから、何とか間に合うだろうとダウードは思った。それでも友人に「急いでくれ」とせかした。
その夜、村と本道との間の黄色い鉄門は開いていた。メルセデスは目的地へ向かって疾走、サナは後部座席で喘ぎ痙攣を起こしているカレドを抱いていた。一五分後アタラ検問所へ着いた。こんな深夜なので、通過する人も車も他にいなかった。検問所の停止サインに従って友人は車を止めた。一分後、一人の兵士が出てきて、車に近づいてきた。後部座席ではカレドの様態が悪化、呼吸が短く小刻みになり、痙攣が激しくなっていった。
「どこへ行くのか」という兵士の質問に、友人は片言のヘブライ語で、「ラマラの病院へ」と答えた。兵士は全員のIDカードの提示を求めた。ダウードは兵士に懇願した。「聞いてください。赤ちゃんが危篤なんです。一刻も早く病院へ行きたいのです。」兵士にはその言葉が聞こえたはずだが、何の関心も示さなかった。後部座席の赤ちゃんを見ようともしなかった。「まるで無関心でした。私の言葉が聞こえたのは確かですのに、『赤ちゃんはどこだ』と質問さえしなかったのです」とダウードが話した。
これまでこの検問所は数回通ったことがあり、発作で苦しむ赤ちゃんを見ると、兵士たちはすぐに通過させてくれた。この兵士はそうさせてくれなかった。彼にはIDカードのチェックの方が大切だった。「仕方がないからみんなのIDカードを集めて兵隊に渡しました」とダウード、「兵隊はそれをもって事務所の方へ歩いていきました。カレドの様態はますますひどくなりました。
ダウードによれば、こんな深夜で通行のないときは、ID検査も一、二分ですむのが普通だが、兵士は五分たっても戻ってこなかった。ダウードは兵士に向かって、「兵隊さん、兵隊さん、すみませんが、赤ちゃんが危篤なので、急いでくれませんか」と叫んだ。若い兵士は振り返り、「何を怒鳴っているのか」と怒った。それでもダウードは、赤ちゃんが死にかけているんだ、早くしてくれ、後でどんなことでもするから、と必死になって懇願したが、兵士は何も答えず、彼らに背を向けた。サナはヒステリー状態だった。カレドを抱いて泣き叫んでいた。「ほんとは車から飛び出して兵隊のところへ行きたかったが、そんなことをすれば撃たれるか、トラブルになって余計に時間が取られることになったでしょう。苛々しながら車の中で待っていました」とダウードは語った。
まるで永遠のような数分が過ぎた。午前一時近くだった。やっと兵士が戻ってきた。「車を開け」と命じた。車内の荷物 ― オムツや薬やミルクを入れた荷物を一つ一つ調べていった。「時間がない!ここで赤ちゃんを死なす気か」と叫んだ。サナが悲鳴をあげた。カレドの様態が悪化したのだ。サラは兵士の腕を掴んで、「赤ちゃんを見てよ!」と必死で懇願した。びっくりした兵士は思わず銃口をサラに向けたが、すぐに落ち着いて、懐中電灯の光を赤ちゃんにあてた。「どうしたんだ?」と兵士。ダウードは赤ちゃんが危篤であることを説明した。「IDカードを取ってくる」と兵士は言ったが、その前に車のトランクやスペア・タイヤーや床下などを念入りに調べた ――占領のマニュアルに忠実に。