[社会] 危機に瀕する生活保護
働いても食えない、老後が報われない
「新自由主義を『最大の失政』と認めさせること―これが私たちの最終目標となるでしょう」湯浅誠さん(NPO自立生活サポートセンター・もやい事務局長)は、この日の講演を締めくくった。七月の参院選で与党に厳しい批判を加えて、新自由主義改革を葬り去ろうとの呼びかけだ。
二月二四日、六甲道勤労市民センター(神戸市)で「これでいいのか、日本のセーフティネット―危機に瀕する生活保護・社会保障」(主催・生活保護改革を考えるひょうごネットワーク)が開催され、切り下げへの危機感が高まる生活保護制度に焦点が当てられた。参加者は一三〇名、追加のイスを出す盛況な集会となった。
報告者は、湯浅誠さん、吉永純さん(花園大)、木下秀雄さん(大阪市立大)に加え、山口絹子さん(シングル・マザーズフォーラム)、内藤進夫さん(アルバイト・パート・派遣関西・神戸事務所)らも現場からの声を届けた。
貧困の大量生産期
「働いても食えない、老後が報われない」現実が社会を覆っている。非正規・不安定雇用が拡大し、社会保障の切り下げが急ピッチで行われているからだ。
最後のセーフティーネットのはずの生活保護にしても、申請書そのものを渡さないといった違法行為を使った「水際作戦」で受給者増が抑えられている。
「困窮原因を問わず、資産調査等を条件としてすべての国民に保障された権利が生活保護」―。長年、ケースワーカーとして生活保護の現場に身を置いてきた吉永純さんは強調する。
しかし昨年七月に閣議決定された「骨太の方針二〇〇六」では、保護基準の切り下げ、母子加算の廃止、リバースモーケージ(不動産担保の貸し付け制度・六五才以上が対象で死後不動産を処分して精算する)などが盛り込まれ、いっそうの支給水準切り下げが図られている。
生活保護制度運用の歪さは、その保護率の低さに現れている。日本の保護率(二%)は、ドイツ(八・八%)、英国(二〇%)に比べ極端に低い。原因は、低い補足率(貧困者のうち生活保護を受給している人の割合)にある。ドイツ=七〜八〇%、英国=八三〜八七%に対して日本の補足率は、二五%。本来保護されるべき人が、保護されていないのである。
企業福祉(企業年金・社宅・終身雇用など)と家族福祉(親族に頼る道)が後退、公的福祉の役割が相対的に高まっている。にもかかわらず社会保障制度が全般的に抑制されるため「貧困の大量生産期」(湯浅誠)となっている。