[社会] イジメの現場から
はじめに
12月15日、参議院本会議で「教基法改悪法案」が自公の賛成によって強行可決された。教職員評価制度・学校間競争と選択制が奨励され、「愛国心」の強制とともに教育格差が拡大再生産されていく。しかしその一方で法改正論議と並行してセンセーショナルに報道された子どもたちのイジメ・自殺などの切実な問題は、決して解決に向かうことはないだろう。
教育現場の実態について、高校教師である諸留能興さんから手記を寄せていただいた。(編集部)
エリート候補だけ優遇する政治家たち
最近、高等学校社会科の世界史が必修科目なのに履修せず、浮いたその時間で英語や数学など大学受験科目の授業に振り替え、「ズル」していた問題がありました。それが発覚した時でも、文部省や文部大臣、総理大臣までもが「大学受験を控えた高校生を動揺させない為の配慮」で、最大で四単位二八〇時間もの不足時間をわずか五〇時間でOKし、単位の「大判振る舞い」で政治決着させました。
あれは、露骨なえこひいきではないでしょうか。大学受験する高校生の比率は、全国の高校生の一部でしかないのですから。
大学受験など夢にも思わず、高校卒の資格すらない子どもも大勢います。高校に在学できても、ただただ、ひたすら高卒の資格だけ欲しさに学校に来て座っているか寝ているか、お喋りしているだけの生徒や、単位不足を理由に泣く泣く退学させられている高校生がどんなに大勢いることか…。
家庭環境が劣悪で勉強どころでなく、四畳半と六畳二間に家族七、八人が折り重なって生活しているから、家では勉強できず、またお父さんやお母さんが恋人を昼間から家に引き入れて、子どもの前でもイチャついているなんてケースもあります。
生徒が傷害や窃盗を起こして警察に補導され、身柄受け取りのため警察が親に電話しても「うっせえなぁ…」と電話を切ってしまう親がいくらでもいます。
「これでは学校のセンセイの手には負えまへんわなァ!」って警察署の少年課の刑事も苦笑していました。
そんな生徒たちを、「成績が悪い」という理由だけで、単位不足を理由に、どんどん退学させてきています。これまでそんな生徒には、単位免除の優遇措置はわずか一時間でさえ講じなかったのに。
将来大学を出て、エリート社会人となる高校生には何百時間もの単位見逃しをする!という大判振る舞い。
これって、貧しい子ども、勉強どころでない家庭環境の生徒への典型的な大人社会のイジメです。
生徒たちは、こうした大人社会のズルさを直感的に見抜いて知っています。だから先生たちが、もっともな理屈をどんなに並べて説得しようとしても、耳を貸そうとしてくれません。「停学にするぞ!」「退学にするぞ!」のハッタリや脅しも、全く効き目がありません。
また、イジメでは、子どもたちの間ではイジメる子どもとイジメられる子どもが、時々刻々と入れ替わっています。「A君はイジメる悪い子」で、「Bさんはイジメられる弱い子」っていう具合に、イジメの被害者と加害者が固定してはいません。イジメる者とイジメられる者とがクルクルめまぐるしく交代し変化しています。極端な場合、二〜三日で立場が逆転するケースも決して珍しくありません。
生徒のそんなイジメ実態の分布状況、力関係がどうなっているかを一番知らないのが、現場のぼくたち教師なのです。だって、生徒は先生のいる前では、決して陰湿なイジメはしませんから。
僕が去年まで担任していた定時制高校のクラスの女子生徒四人は、入学以来ず〜っと仲良しグループでした。トイレにも一緒に行くほどの仲で、他の同級生をイジメまくっていた、「悪ガキ」女子生徒たちでしたが、その四人のうち、今まで仲良しで一緒だった一人を残り三人がイジメはじめ、イジメられたその子はそれを苦にして他校へ転校していきました。
その残った三人も、そのうち、二対一になって、一人をイジメはじめました。その生徒は最後まで耐え忍んで、この三月無事卒業しましたが、私の前でよく泣いていました。その生徒の、涙が一杯溢れそうになっている顔が頭にチラついて、夜も寝られない日が続いたものです。
イジメる生徒に、「お前らいいかげんにしろヨ!」って言っても、「だって、あいつ、ウットイ(うっとおしいの意)んだもん…!」って平然と言い返して、アッケラカンとしてまたイジメ続けました。