[社会] 派遣会社起業する若者
「野宿者の仕事を見つけたのは俺たちだ」
「違法なことはやっているが、労働者から訴えられるようなことはやっていません。むしろ、仕事に就けない労働者から感謝されている」と胸を張るのは、今年、知人とともに人材派遣の会社を立ち上げた川西啓太さん(三〇歳、仮名)だ。
人材派遣――。厚労省によると、派遣で働く人は〇三年度で約二三六万人(対前年度比一〇・九%増)。その三人に二人は三カ月未満の「細切れ契約」で、半年未満契約なら九割に及ぶ。雇用の不安定化と格差社会を象徴する業種であり、その実態は「現代の日雇い労働者」だ。「日雇い派遣」「ワンコールワーカー」という言葉も生まれた。
派遣元事業所数は一万六、八〇四ヵ所で、前年度比では一四・七%増、年間売上高は総額二兆三、六一四四億円(対前年度比五・一%増)にのぼる。
川西さんに「派遣する側」の内幕を聞いた。
川西さんは昨年、アルバイト先の経営者に誘われて、三人で人材派遣会社を設立した。川西さんの仕事は、派遣先企業の開拓・労働者の求人といった営業活動が主だが、労働者の急病や無断欠勤などで派遣に穴が空いたときには穴埋めで仕事に入ることもある。いつ穴埋めに入るかわからないため、川西さんの生活は不安定で多忙を極める。取材のその日も夜勤明けで、取材中に会社からかかってきた電話で、翌朝五時半に仕事に入ることが決まった。
派遣先の職種は工場での単純軽作業がほとんどだが、クリーニング屋や運送屋、電気工事など、多岐にわたる。登録している派遣労働者はおよそ三〇〇人ほどで、派遣業としてはまだ小規模だ。三〇代までの地元の若者が多いが、大阪の野宿者対策施設からも約二〇名を受け入れた。彼ら遠方の労働者には、地元の一軒家を借り上げて、寮として住み込んでもらっている。「求人は競合するので、他社が行かないところをねらって行かなきゃ」と川西さん。「次にねらっているのは引きこもりやニート」だという。
「要は頭数ですから、基本的に誰でも採用します。働く理由も前の仕事が何かも関係ない」──ある派遣会社の内勤社員が打ち明けた。(一一月七日朝日新聞)
しかし川西さんは自負をもっている。「Aさんを仕事に就けたのはおれたちだな、と思う」。
Aさんは野宿者就職支援を行うNPOに登録していた。しかし、要領・効率が悪いAさんを雇う企業は見つからなかった。「でも、うちは営利企業だから、なんとか派遣先を探そうと必死になる。Aさんも含めて六人セットで働ける現場を探し、就職に結びつけた。もちろん、他の五人と同じ賃金で」