[コラム] 山村千恵子/国策として大々的に取り上げられる「被害者」
「総務省は、NHK国際放送で拉致問題を重点的に取り上げるよう、放送法に基づく命令を出すことを検討している(毎日新聞十月十八日)
菅義偉総務大臣が「1.総務大臣は協会(NHK)に対し、放送区域、放送事項その他必要な事項を指定して国際放送を行うべきことを〜(略)命ずることができる。」という放送法第三十三条によって、電波管理審議会にNHKへの命令放送を諮問すると明らかにしたのだ。
例によって「審議会しだいではNHKの国際放送では国の命令で拉致問題を報道することになる」とか、「『命令』ではなく『要請』にとどめておくべきだ」とか、コメンテーターがかまびすしい。
そういう要請や命令が今までなかったはずはない。明らかにされただけでも「まし」なのか? いや、明らかにしても通る世の中になったと踏んだのだろう。
民放には命令法はないといっても、放送法・電波法があって、免許を取り上げられることが恐ろしくて、これまた自由とは言いがたい。
そういうわけで命令問題が明らかになる以前から、拉致被害者問題が電波に溢れることになっていたのだ。「国策だから」という言葉が平然と使われる。そうなのだ。拉致被害者問題をクローズアップすることが国策なのだ。
どんな事件でも、「理不尽な被害者」になった人は本当にお気の毒だ。拉致被害者も、中国残留孤児も、公害被害者も、耐震偽装建造物の購入者も。それらは被害の大きさ深刻さに応じて取り上げられ保護されるべきではないのか。「国策」の結果として生じた中国残留孤児などには、もっと責任もって保護すべきなのに、帰国への高いハードルと、帰国後の悲惨な生活を強いている。国もマスメデイアも再び有無を言わせず「国策」を第一義にし始めた。いつぞやと同じ「国策報道」だ。
耐震偽造とマスメデイア
イーホームズの藤田東吾社長が告発したことに端を発して、耐震偽装問題が明るみに出たのが一年前だった。そこから二つの政権政党の暗黒部分が明らかにされつつあった。ところが、その報復のように藤田社長が別件で逮捕・拘留され、十月十八日に有罪判決を受けた。
有罪判決後、藤田社長は記者会見を開き、新たな耐震偽造問題の告発をした。
今春、イーホームズは耐震偽装物件を三件発見し通報したが、適切な手段がとられなかった。その結果、一件は現在も販売中である。犠牲者の発生を止めたい。物件の調査が必要である。
また我が国の二百万件もと推測される多くの建物に、耐震偽装がなされている可能性が高いから、再調査をしてもらいたい、と。
その告発について、全てのマスメディアが無視を決め込んだ。その上で有罪判決については大きく報道し、藤田社長は「自説をまくし立てた」と悪感情をあおる表現をし、「被害者」からの藤田社長への怒りの声のみを報道した。たとえ告発内容に疑問があるとしても「藤田氏は耐震偽装が現在進行形で、命に関わる重大な危険があると述べた。これからの調査によって真偽が解明されなければならない」くらいの報道はなされるべきではないのか。完全に無視することによって、マスメデイアの偏りとともに、政権政党のどす黒い闇の部分を暗示している。こちらは書き落とすことが政権政党の利益であり、政権政党の利益が国策なのだ。
この問題は「きっこの日記」を始め多くのブログで語られているが、江川紹子さんのブログを紹介しておく。