[海外] 中国/出稼ぎ労働者問題に取り組む「工友之家」を訪れて
──山口協(地域・アソシエーション研究所)
中国社会の矛盾解決を目ざす「下からの」動き
八月二〇日から二五日まで、ピープルズ・プラン研究所主催による「草の根の農村復興の潮流に触れる中国農村交流ツアー」に参加した。
目的は、「三農問題」(後述)の解決を目指す民衆次元の動き、その一端に触れることであり、それを通じて日中間の民衆間の連携をどう形成すべきかを検討することにある。訪問したのは三ヵ所。ここでは、出稼ぎ労働者問題に取り組む人々について紹介したい。
身分制としての都市戸籍と農民戸籍
北京中心部から北東へ車でおよそ一時間、北京空港の南十数qのところに、北京市朝陽区金盞郷皮村という村がある。畑や防風林、赤茶けた更地、工場などが飛び飛びに続く、いかにも郊外らしい風景の中、幹線道路を折れると、バス一台がやっとという細い道の両側に食い物屋、雑貨屋、八百屋などの並んだ集落が現れる。そんな皮村中心部の一角に、訪問先の「同心実験学校」がある。
同心実験学校は、北京市内に居住する出稼ぎ労働者の子女のための自主学校である。かつて村の公立学校だったものを改装し、〇五年八月に開学した。敷地面積は三〇〇〇uあまり。教室棟、図書館、寄宿舎、食堂、運動場などを備えている。幼稚園段階から小学校六年生まで、計一六クラスを擁し、在校生は四五〇人。教師は一六名で、全て教員免許を所持。学費は学期ごとに三七〇元(約六〇〇〇円)ほどである。
同様の学校は北京市内におよそ三〇〇校以上あり、行政の認可を受けたものもあれば、無認可で運営されているものもある。同心実験学校は前者だが、行政からの助成金などは全くない。
もちろん、中国は義務教育制度を導入しており、北京市内には数多くの公立学校も存在する。しかし、他の省から、そして多くは農村からやってくる出稼ぎ労働者の子女は基本的に、公立学校に通うことはできない。仮に受け入れる公立学校があったとしても、高額の経費が必要となる。
不思議な話だが、これは中国独自の戸籍制度に由来する。周知のように、中国では「都市戸籍」と「農村戸籍」という二種類の戸籍が存在する。しかし、この区分は単なる地理上の分類ではなく、ほとんど「身分」に近い。
農村戸籍を持つ者は、例え都市に移住しても都市戸籍に変更できるわけではなく、そもそも正式な居住許可すら与えられない。そのため、都市戸籍者が享受する社会サービスからも排除される。その子供もまた同じ。農村戸籍者の母親を持つ限り、都市で生まれても農村戸籍に縛られる。都市戸籍者を対象とする公立学校に通う権利はない、というわけだ。