[政治] 共謀罪法案「修正試案」強行採決狙う安倍政権
──弁護士 山下幸夫
はじめに
9月20日の自民党総裁選で、安倍晋三が選出された。26日から始まった臨時国会で首相指名され、「小泉政権より悪くなる」といわれる安倍政権が発足した。 社会保険政策や、景気・雇用対策を渇望する市民の声を無視し、臨時国会では、教基法・テロ特措法改悪を最優先する方針を明らかにしている安倍政権。共謀罪・郵政民営化・日米安保の問題も含め、果たして今後どんな影響があるのか? それぞれの現場で闘っている方に「安倍政権がもらたすもの」についての批判をお願いした。(編集部)
国連条約批准に共謀罪は必要ない!
共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「共謀罪法案」という)は、本年一月に招集されていた第一六四回通常国会では、民主党を始めとする野党の頑張りと圧倒的な市民から反対の声の前に、最後まで与党は強行採決をすることができず、最終的には秋の臨時国会への継続審議となった。
臨時国会は九月二六日に招集され、同日、安倍晋三首相による安倍政権が発足する。安倍官房長官は九月三日に盛岡市内で開かれた自民党東北ブロック大会において、秋の臨時国会で共謀罪法案の成立を目指す考えを表明したと報道されている。
最近のマスコミ報道においても、九月一九日付日経新聞は、共謀罪法案の強行採決も視野に入れていることが報道されている。
一部の報道では、共謀罪法案は来年の通常国会以降に先送りされるのではないかとの見方もあったが、与党は、共謀罪法案の臨時国会での成立を目指す方針を固めつつあるようだ。秋の臨時国会が、共謀罪法案をめぐって最大の山場であり決戦場になることを覚悟して、闘いに向けての準備を進める必要がある。
通常国会の審議の中で、「国連の越境組織犯罪防止条約の批准のために、本当に、六〇〇以上もの共謀罪を新設する必要があるのか?」が問われるようになってきた。
その中で、国連が二〇〇四年に各国の国内法起草者向けに作成した「立法ガイド」(Legislative guide for the United Nations Convention against Transnational Organized Crime)が存在することが明らかとなった。
越境組織犯罪防止条約犯罪三四条一項には、元々、「締約国は、この条約に定める義務の履行を確保するため、自国の国内法の基本原則に従って、必要な措置(立法上及び行政上の措置)をとる」と規定されていた。
しかし「立法ガイド」では、「これらの措置は各締約国の国内法の基本原則と合致する方法で行うこととする」、「国内法の起草者は、単に条約文を翻訳したり、条約の文言を一字一句逐語的に新しい法律案や法改正案に盛り込むよう企図するよりも、むしろ条約の意味と精神に主眼を置くべきである」、「国内法の起草者は、新しい法が国内の法的な伝統、原則、および基本法と合致するものとなることを確保しなければならない。これによって、新しい規定の解釈において裁判所や裁判官の違いにより対立や不確定要素が生じる危険性を回避することができる」と述べられている。
ここでは、各国の基本原則に従って国内法整備がされれば良く、条約の文言にこだわってそのまま国内法を制定する必要がないことが強調されている。
そうであるならば、包括的な共謀罪を新設する必要は全くないと言わなければならない。我が国の刑事法の体系は、犯罪の処罰については、「既遂」を原則とし、必要な場合に限って「未遂」を処罰するとともに、ごく例外的な場合に極めて重大な犯罪に限って着手以前の「予備」を処罰している。これは、法益の侵害又はその危険性が生じて、初めて事後的に国家権力を発動することができるという自由主義的な刑事司法システムをとっているのであり、まさに、この「基本原則」に当たると言うべきだからだ。