[社会] 和歌山砒素カレー事件/林眞須美さん犯行説はでっちあげ?
証拠なしで殺人犯に一直線
果たして、林眞須美さんはカレーに亜ヒ素酸を入れた「真犯人」なのか?検察・裁判所が林眞須美さんを犯人とする理由は、@眞須美さんが夫の健治さんに亜ヒ素酸を飲ませて保険金詐欺をしたことは「殺人未遂」であり、そんな悪いヤツならカレー事件もやったに決まっている。Aカレー鍋にヒ素を入れることのできる人間の中で、林眞須美が一番怪しい。B林さん宅の台所から押収されたヒ素と、カレー鍋のそばから発見された紙コップに残っていたヒ素に含まれるアンチモンやスズなどの不純物の成分は同じ─という主張だ。
しかし、@夫の健治さんは、保険金詐取の目的で自らヒ素を飲んでいたのであり、「殺人未遂」は成立しない。A林さんがカレー鍋の見張りをしている時は、次女が付きっきりでいた。林さんがヒ素を入れたとする直接的な証言や証拠は全く出ていない。
B林さん宅の台所(流しの下)から発見されたとされるヒ素の付着したポリ容器は、和歌山県警の捜査員三〇名による捜索四日目にして発見したもので、不自然だ。林さんの家族はその容器に見覚えがない(警察による「証拠」のデッチ上げの可能性)。また、ヒ素の不純物の成分分析については、再鑑定で「ポリ容器のヒ素は微量で(カレーのヒ素と)同一性を鑑定できない」という結果が出たにもかかわらず、和歌山地裁は弁護団に秘密で、鑑定人に「問い合わせ」を行い、「鑑定補充書」さらに「訂正書」を提出させて、鑑定結果は「二つのヒ素は同一である」とする検察側の表現に変わった。
林眞須美さんを有罪とする物的証拠も、動機も何ひとつ論理的に立証できないまま、「死刑」判決を下した裁判所。そしてその有罪の雰囲気づくりに大きな役割を担ったマスコミ。「こういった裁判においては、今の裁判制度の中では必ず負けるようになってるんです」──オウム真理教の麻原彰晃被告の主任弁護人も務めた安田好弘弁護士の発言だ。裁判所に提出された膨大な量の証拠を裁判官はきちんと検証していないこと、検察側が提出した以外の証拠を開示させることが難しいこと、などがその理由だ。「それでも私たちは、無限の努力をしていかなくちゃいけません」(安田さん)。
獄中の林眞須美さんと家族との往復書簡集、『死刑判決は「シルエットロマンス」を聞きながら』が、八月二五日に講談社から発売される。