[政治] 滋賀県知事選/三党相乗りゴーマン知事敗北
はじめに
「ほんとによかったなあ。まさか勝つとは・・・」―選挙戦が終わり、ポスター撤去に地域を歩く沢田享子県議(五八歳)に野良着姿のおばあさんが声をかけた。嘉田新知事の個人演説会は、選挙本番になっても一〇〇人を超えることはあまりなかったという。しかも何ヵ所もの会場を駆け足で回るのではなく一晩に一ヵ所を原則に。その分しっかり時間をとり、参加者の意見や質問に応えた。「あのおばあさんもそうした一人なのでしょう」(沢田県議)。
滋賀県知事選は、「象とアリの闘い」との下馬評を覆し、新人の嘉田由紀子氏(二一七八四二票)が三党相乗りの現職・国松善次氏(一八五三四四票)を破り当選を果たした。小泉構造改革の痛みが押しよせるなか、公共事業による地域振興という相変わらずの土建行政、そして自・公に民主党・連合滋賀まで相乗りした現職候補に有権者はノーを突きつけた。
嘉田氏の勝利は、土建行政による環境破壊を批判し、住民参加を求め続ける全国の人々に大きな希望を与えている。嘉田新知事を推した三名の県議の一人である沢田享子さんに選挙戦を振り返ってもらった。(編集部)
現職のゴーマン手法に激しい批判
滋賀県議会は、一月三一日から二日間、臨時議会を開いた。議題は、東海道新幹線びわこ栗東駅(仮称)建設の是非を問う住民投票条例である。条例制定を求める住民直接請求署名は、規定(有権者総数の五〇分の一以上)の三倍近い約七五〇〇〇筆が集まった。ところが臨時会採決の結果は、反対三五人、賛成五人(議長と欠席者ら計三人を除く)で否決。国松善次知事(当時)は「議会制民主主義を通して県民の意思を再確認できた」と開き直ったが、直接請求代表の一人は、「知事選を住民投票の機会ととらえて運動を続ける」との考えを明らかにした。
さらに国松前知事は、新駅建設が争点となりつつあった知事選を間近に控えた五月二七日、着工式を行っている。「反対派住民に諦めさせるのが目的だったのでしょう」と沢田県議は分析するが、「横暴な政治手法で、住民感情を逆撫でする行為」だ。
滋賀県は、琵琶湖保全・石けん運動などで有名だが、「保守色のとても強い地域」(大津市・木村真知子さん)。四七議席(欠員四)中自民党系が二七議席を占めている。国松前知事は、強固な保守層に乗っかって知事を二期つとめ、盤石の体制をもって選挙戦に臨んだが、そのゴーマンな政治手法は保守層からも厳しい批判を受けた。
象とアリの闘い制した「女の決断」
県知事選に立候補した三候補それぞれを支持する県議の数はおよそ以下のとおり。国松善次=三八名(自・公・民)、嘉田由紀子=三名(社民支持)、辻義則=二名(共産党)。「象とアリの闘い」と評されたのも頷ける。
沢田県議は、嘉田氏を支持した一人だが、他の二名は、民主党と会派を組む岡崎基子氏と、自民党・冨士谷英正氏(元議長)だ。必ずしも政党で色分けされているわけではない。嘉田氏は、立候補表明にあたり全ての政党に対して推薦依頼をした。自民党の冨士谷氏が現職に見切りをつけたのは、「新駅建設にかかわる国松氏の強引な政治手法に嫌気がさした」ためと言われる。また、岡崎氏は、志賀町で長年にわたり廃棄物処分場建設反対運動を担い、前回選挙で現職を破って県議となった住民運動出身議員だ。
さらに沢田県議が選挙戦に弾みをつけたと高く評価するのは、県内唯一の女性町長だった前田清子氏だ(市町村合併により失職)。「大きな象に敢えて闘いを挑むその勇気=女の決断を無駄にしたくない」との思いだったという。研究者時代の知人・精華大学の教え子、そして「女の決断」を粋に感じた有志からはじまった支持の輪は、どう広がっていったのか?
「新幹線の新駅がないと不便で困るという人は、一体どこにいるのか?」。住民と膝を交えての座ぶとん会議で嘉田氏は訴えた。「のぞみが停車する京都駅が近いのに、ひかりとこだましか停車しない新駅に二四〇億円もの税金をかけるのは、もったいない」との現職知事への批判だ。