[社会] 野宿者にとっての医療とは
はじめに
みなさんは風邪をひいたらどうしますか?ヘルニアや痛風が痛んだり、虫歯になったらどうしますか?、軽い事故で肋骨や小指の骨を折ったりしたら…。
「病は気から」派の人はともかく、多くの人にとって「病院に行く」というのは大きな選択肢の一つであるはず。だが、ほとんどが健康保険に加入しておらず、医療費を支払うことの困難な野宿生活者にとっては、難しい選択だ。
野宿者が元気になったら困る?
野宿生活者にとって一番の悩みの一つは、医療にかかわる問題だ。私が野宿の仲間から体調不良の訴えを聞いたら、まず考えるのは福祉事務所に相談することだ。福祉担当職員の面接を受け、病院を紹介してもらい、生活保護の医療扶助で医療費を支払って入院する。重要な点は、入院はできるが通院することはできないということだ。
軽度の病気やけがならアルミ缶拾いや日雇いの仕事に出ながら治していきたい。だが、福祉を通じての通院治療はできないし、高価な市販薬を入手することも難しい野宿者は、がまんするしかないのだ。がまんをして自然治癒を待つか、がまんの果てに重篤化して救急車で運ばれ入院するか。中間がないのだ。
福祉事務所が生活保護法に基づき「医療扶助単給=医療券」を発給しさえすれば、テントから通院して治療することもできる。そういう制度もあるのに運用をしないのは、行政はあくまでテント撤去を第一に考えているからだと思う。「野宿者が病院にかかって元気になったら困る」「早いとこ病院でも入ってテントをたたんでくれ」というわけだ。(ごく例外的に医療券を発行するケースもある)。
釜ヶ崎には「社会福祉法人 大阪社会医療センター」があり、社会福祉法に基づく「無料低額診療」を行っているが、釜から離れた地域の野宿労働者は医療センターを利用することも難しい。
長居公園内の競技施設の軒下で仲間と三人で暮らしているOさん(四八歳)。この二月、Oさんらは二人組みの若者による襲撃にあった。深夜、ダンボールハウスで眠っていたところ、突然鉄パイプでなぐりかかってきたという。Oさんを含めて三人が救急搬送された。だが肋骨を骨折したOさんはシップを張ってサポーターを巻いて帰ってきた。足首を骨折した一人がいまだ入院中である。
寝返りを打つこともできない痛みのために、一週間はアルミ缶拾いの仕事に出ることもできなかった。「仲間とおってよかったわ」今日のメシ代を明日稼ぐ労働者にとって、一週間も仕事に出られないのは深刻だ。幸いOさんは、いっしょに炊事をしていた仲間に支えられて、食いはぐれずにすんだ。
病院は、そんな事情は知ったことではない。診断書には「全治一ヵ月。二週間の安静を要する」と書いてある。ばかげた。野宿生活でアルミ缶拾い、しかもテントも持たない。安静にできる時間なんてどこにもない。