[社会] 野宿者にとって過酷な"夏"
真夏は慢性的に睡眠不足
ちょっと気が早いようにも思うが、長居公園のテント村にはもう夏の風が吹いてきた。子どもの頃はウキウキしながらこの季節を迎えたものだが、テント暮らしとなった四年前からは、どうにも憂鬱な気持ちになってしまう事情がある。
今年の「夏の便り」は、コンビニで売っている温泉卵三個。連休の明けた深夜一時、テント村の看板に「ドン!」という衝撃と少年らの嬌声とともに届いた。昨年の夏にもうだる暑さ以上に村の仲間を悩ませた、若者らによる嫌がらせだ。
そうでなくとも野宿者にとって、夏の暑さは冬将軍と同様に厳しい。年間二〇〇人といわれる大阪市内の野宿者の路上死のうち、真夏の熱中症や脱水症状で命を落とす者も少なくない。
実はブルーシートのテント暮らしの身にとって、眠ることに関しては冬よりも夏のほうがきついのだ。寒さは衣類を着込んで毛布をかぶれば何とかなるし、身を切る空気の中を自転車で走っていても、二〇分もすればぽかぽか暖まってくる。だが暑さは逃れようがない。
夜間でも風通しの悪いテントの中はサウナ状態。湿度の高いテント内は、ダニ・ノミ・ナメクジ・シロアリといった連中にはパラダイスだ。表に出れば蚊の大群に襲われる。蚊取り線香を一〇aぐらいに手折って、まわりに五つも六つも並べて眠る。「蚊帳でもあれば」と思いながらうとうとして、明け方にようやく涼しくなってきたなと思えば、もうアルミ缶拾いの仕事に出る時間だ。
そういうわけで、真夏は眠る時間がない。慢性的に睡眠不足で、体調不良の元凶だ(もちろんこれはテント持ちの労働者の話で、ベンチや軒下で露宿する仲間にとっては、冬こそはまさに「命がけ」の季節だ)。
体調管理のためには衣類をこまめに取り替えたりして清潔を保つ必要があるが、コインランドリーや銭湯の費用は、野宿の仲間にとってはけっしてリーズナブルではない。シェルターや自立支援センターには洗濯機やシャワーなどの設備があるが、入所者しか利用することができない。「通所利用させてくれたら」とうらめしく思う。ぼくらは公園の水道でバケツに水を汲んで洗濯をし、蛇口にホースをつけて夜中にこっそりシャワーを浴びる。
野菜やたんぱく質の不足しがちな貧乏食生活も、体調管理を直撃する。食あたりにも気をつけなくてはならない。冷蔵庫はもちろんないが、ぼくらは魚釣りやキャンプで使うクーラーボックスを拾ってきて活用している。