[情報] どん底は世界に通ず/山ちゃんとチーコ
はじめに
野宿生活は「どん底」なのか?野宿者を「どん底」に閉じ込めているのは社会のまなざしそのものである。むしろ、「どん底」とされてしまった場所からのまなざしの照らし出す、この社会のいびつなあり様ににこそ、私たちは目を向けなくてはならないだろう。(編集部・中桐)
山ちゃん
やまちゃん(五六歳)とチーコ(犬)は、長居公園のテント村で暮らして丸四年になる。愛嬌のある「二人」はテント村の人気者。地域でもちょっとした有名人だ。
やまちゃんには毎日ひっきりなしにお客さんがやってくる。公園で犬の散歩をさせている地域の人と飼い主どうしのつながりがある。野宿OBで現在は生活保護を受けている人たちが、お酒や食べ物をもって遊びにくる。チーコやネコに毎日食べ物を届けるおばちゃんたちもいる。ときどき「シャチョー」とスナックで飲んでもいる。
テント村の住人としては、酔っぱらいのやまちゃんから大きな迷惑をこうむることもある。夜中に大声で話したり、昼間から人目もはばからず飲んだくれている時などだ。私も倍近い年齢の彼をしかりつける時もある。そんなとき彼は、「ごめんなさい」と愛嬌よく謝ってみせる。
やまちゃんの体はアルコールでぼろぼろだ。ちゃんとした検査を受けたなら、おそらくいくつもの重度の疾患が見つかってしまうだろう。いつくたばっても不思議じゃない。自身もそのことを自覚しているが、入院や施設入所を拒み続けている。
武勇伝
彼には武勇伝がある。三年前の冬、ずっと拒みつづけていた入院を彼はついに決意した。「もうあかん」と泣きながら体調の悪化を訴えるのだ。すぐに福祉事務所に同行し、行路病院に入院した。
「ついにやまちゃんも年貢を納めたか」と感慨にふけったのもつかの間、翌朝に急報が入った。「やまちゃんが血まみれで帰ってきた!」という連絡である。苦笑いを浮かべるやまちゃん。
入院先の病院で不安感から眠れなかった彼は、夜中に看護士の足音が「怖くなって」ベッドを抜け出し、玄関の扉のガラスを突き破って逃げた。破片で左足のすねを切って血が流れたが、歩いて長居公園に向かった。天王寺の交番で呼び止められ、事情を話すと、警察官が包帯を巻いて簡単な手当てをしてくれた。そうして朝までかけて歩いて帰ってきたという。これ以来、彼はますます入院を拒むようになった。