[情報] バイオディーゼル燃料の現状、海外では
──平賀緑
前回のまとめ
注目を集めるバイオマス資源。一方、原産地では何が起こっているのか。ブラジルでは、日本などへのバイオディーゼル輸出用のさとうきび畑で働く農場労働者が、過労死させられている現状がある。 バイオディーゼルを石油の単なる代替物ととらえるのではなく、その導入を通じて生産と消費のあり方を地域に根ざしたものに変えていくことこそが、豊かで持続可能な社会を作っていくためには欠かせない。
環境・農業問題の対策として注目
再生可能なエネルギーやマテリアル資源として注目されているバイオマス(生物由来の有機性資源)について、これまで三回の連載で紹介してきた。今回から日本でも注目されているバイオディーゼルを例に、その現状の一端を紹介したい。
バイオディーゼルとは、植物性もしくは動物性の食用油にアルコールやアルカリ触媒などを利用して「エステル交換」という化学反応を起こして作り出す、軽油代替燃料だ。@既存のディーゼルエンジンにそのまま使え、A即効的に排ガスの有害物質を削減し、B原料が生物由来のため、再生可能で大気中の二酸化炭素を一方的に増加させない(カーボンニュートラル)なエネルギー源ということで注目されている。
バイオディーゼルを作る化学反応である「エステル交換」自体は、ディーゼルエンジンが開発されるずっと以前、早くは一八五三年には開発されていたという。もともとはバイオディーゼルではなく、逆に油から工業界で幅広く利用されているグリセリンを取り出す技術として利用されていたという。
はじめはグリセリンを生産するときの「副産物」だったバイオディーゼルが、大気汚染対策として、さらに余剰農産物のはけ口や有休農地の有効活用のために注目されるようになった。
一九八〇年代にはオーストリアの農業協同組合がバイオディーゼルの生産を始め、一九九一年には同じくオーストリアで商業的な生産が始められた。一九九〇年代に入ってからは、ヨーロッパ各国にバイオディーゼルの生産が広がり、今でも全世界で生産されているバイオディーゼルの約九割がEU諸国で生産されているという。ヨーロッパ最大級の農業国であるフランスでは、一九九〇年代に菜種油を原料とするバイオディーゼルの生産を始め、国内で販売する軽油のすべてに五%のバイオディーゼルを加えるようになった。ドイツではバイオディーゼルは税金を免除され、国内に一七〇〇カ所もの給油スタンドがある。
アメリカでは大豆業界が後押しして、一九九二年には「全米バイオディーゼル協会(NBB)」という業界団体が組織された。政府にも積極的にロビー活動を続け、大々的にバイオディーゼルを推進している。アメリカでバイオディーゼルを供給している拠点の地図(左図参照)を見ると、バイオディーゼルと大豆との繋がりがわかると思う。
一方、エネルギー消費大国となったインドは、原油輸入削減と大気汚染防止の観点からバイオディーゼルに注目し始めている。
インドの場合は既存の食用油ではなく、燃料用の作物を国内で栽培しようという動きが強い感はある。タイでは一時、軽油と植物油を混ぜただけの粗悪品が出回り混乱したが、王室プロジェクトとしてもバイオディーゼルが推進されている。また最近気になるのは、東南アジアのプランテーションで生産したパーム油からバイオディーゼルを作り、日本を含む先進国に輸出する動きだ。