[投書] 言わせて聞いて第1232号
アジア民衆への配慮の欠如こそが重大な外交問題●兵庫・藤田雅子
上海の日本領事館員自殺事件で、日本政府がこの事件を、表舞台に出してきたことは誠に残念に思う。こういった類の事件は、理由や事実がどうであれ、表に出すべきではない。マスコミがとりあげるのは仕方がないが、政府が外交問題にするのは論外である。 異性間の問題は実情がどうであれ、その原因を作った個人の責任による。個人的問題として処せられるべきである。それによって、個人が汚名を被ることがあっても、その汚名に耐えるべきである。その汚名を晴らしたいならば月日を稼ぎ、手記の形で表明すればよい。国のために汚名を被ってきた人々は何万といる。異性問題に偽装したスパイ事件は、過去多い。その渦中の人や政府が弁明し、正面切って取り上げてきただろうか?
私たち日本人はもっと大人にならなければならない。小泉さんの「一政治家の心の問題に外国が干渉することはおかしい」という発言同様、典型的ともいえる日本式発想が悲しい。
日本は島国で狭く、それ故か、皆が同じ発想をする傾向がある。外国は地続きで、異民族間の交流も頻繁で、異なる思考形態には慣れている。思慮が必要だ。
安倍官房長官が前に出て、外交問題として、中国と争うなど、考えられない。自殺された領事館員の遺族の方には気の毒ではあるが、この場はじっと我慢して黙していただきたいと思う。
私達日本人には彼の心情を汲み取る能力はある。これは一個人の問題だ。一国の外交問題ではない。彼は殺されたわけではなく、自殺だ。
小泉さんの心の問題は外交問題ではない。「被害を受けたアジアの人々への配慮に欠けていること」こそが、重大な、国の威信を損なう外交問題なのだ。ドイツのユダヤ記念館を見れば世界はドイツ人の心情を理解するだろう。
東西ドイツに七年暮らし、東西問題に巻き込まれて苦しみ、偽装スパイ事件を見聞きしてきた一人の日本人として、そして、反戦運動に加わった親を持つが故に、祖国日本で悲しい、恐ろしい子供時代を過ごした日本人の一人として、心から叫びたい。
およそ三〇年前、ドイツから帰国した当時、ドイツで出会った友人達が悲しい祖国の運命を背負わされている姿を見て、私はどれほど、祖国の平和と、その平和を維持してくれた政治や政府に感謝したか知れない。当時、文学の形でも表現してきた。しかし三〇年たった今、祖国の外交と内政に抱く危機感と不安は言葉に尽くしがたい。
「このままでいくと、三〇年後に日本人は、難民になっている」と言った人があるが、その原因は経済ではなく、内政と外交の貧弱さにある。経済大国でなくとも、教育、倫理、医学、政治がしっかりした国が崩壊した例が世界であっただろうか。「確かな人間の存在」のあるところには繁栄こそあれ、崩壊などない。
最後に、自国の平和維持と、他国との共存のために、「他国を怒らせないような国と国民であること」が今後、不可欠の条件になってゆくだろうと考える。ドイツ人を怒らせたユダヤ、アメリカ人を怒らせたイラク。人々の怒りこそが、戦争と悲劇の原因なのだ。