[コラム] 山村千恵子/覚えておこう「男系でなくば皇室ではない」という言葉
増殖する男系ウィルス
皇統を継ぐための、子産みの責を負わされた妻たちの負担は相当大きいらしい。男の子を二人も産んでさえ、民間初の妻は声を失った。子産みが遅く、しかも女の子を産んでしまった二代目の妻は、今も体調をくずしている。そんな中、皇統が絶える危機から、皇室典範を改定し、女性天皇を認めることになりそうだ。
そこへ噴出したのが、男系の伝統説。「なぜ皇統が尊いかというと、神武以来二千六百六十五も、男系の血筋を繋いできたところにある」と。
まじめに反論するのがバカらしいと思う間に、男系ウイルスは増殖してきた。二千六百六十五年前の弥生時代に、神武が建国したと、非科学的なことをまことしやかに口にする。それ以来ずっと血統が続いたと、誤った歴史理論を振りかざす。日本の、後に天皇と呼ばれるようになった最高権力者の血筋は、何度も途絶えている。伝統だ文化だというなら、象徴天皇というような伝統も文化も、六〇年前まではなかった。
旧宮家の子孫の一人、竹田恒泰氏は「例えば、世界最古の木造建築の法隆寺が老朽化したからといってコンクリートで固めては意味がない。一番重要な伝統を変えては、もはや皇室ではない」と断定している。こういう人は貴重だ。大いにこの主張を叫び続けてもらいたい。
この人たちのエセ科学によると、男系にだけ受け継がれるY染色体が大切なのだそうだ。Y染色体 いわゆる伴性遺伝ということで、XやYの記号を使って、赤緑色盲や血友病は、女性には現われにくいと習ったことがある。側室復活論まで出るのは噴飯ものだ。「腹は借り物、畑に過ぎない。種を植えて育てるのだ」と、俗説を振りまくオトコもいる。馬鹿馬鹿しいのだか、こんな迷信が日本の戸籍制度、家族制度を支えているのだから、笑って済ませるものでもない。そんな家系へ、まともな女性がヨメにいくはずがない。まして側室になる女性など。
しかし最近、人類の遺伝子は女性のもののみが、現在に至るまで延々と引き継がれているのだという学説が発表された。人類の歴史を遡れば、人類発祥の地アフリカ大陸の一人の女性に到達するということが判ったのだそうだ。だから女性が偉いのだという気はない。男系であれ女系であれ、遺伝や血統で尊厳が決まるなどと考えてはいけない。