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更新日:2005/07/20(水)

[海外] パレスチナ/アブ・マゼン(アッバス大統領)の100日間
──ウリ・アヴネリ 翻訳/脇浜義明

パレスチナ自治政府大統領就任から一〇〇日が経過した、アブ・マゼンのバランス・シートを見てみよう。

先ずプラス面。第一に、統治体制が存続していること。これは大きなことである。アラファト死去後、混乱していたかもしれない。ところが次期政権への移行はスムースで、選挙が民主的に行われた。「民族の父」的存在の大物の死後、平穏に権力移行を成し遂げる民族はそう多くない。パレスチナ人民の先進性と時局認識を誉めるべきだ。

第二に、停戦。パレスチナ武装組織は、イスラエルの公式停戦宣言を待たず、アブ・マゼンの説得に応じて、武装行為の停止に応じた。これは、パレスチナ武装組織の弱さの現れではなく、彼らが自信と自尊心を回復した証とみるべきだろう。

第二次インティファーダの四年間、自らの命を犠牲にする用意がある戦士が何百人、何千人といることを示した。またカッサム・ミサイルや手製砲弾でイスラエルを苦しめた。従って彼らは自発的停戦を屈辱とは感じていない。

第三に、統一。ハマスが自治政府に(おそらくはPLOにも)参加し、選挙にも参加したことは大きなことだ。この民族的契約は、特に民族解放闘争の最中に起きたという点で、将来のパレスチナ国家のよい前兆だ。

第四に、米の対パレスチナ態度の変化。これまで米は、一〇〇%イスラエル寄りだったが、微かながら、アブ・マゼン大統領就任以降、パレスチナ寄りの姿勢が見え始めた。

この変化は、アブ・マゼンの性格に負うところが多い。アラファトは解放の闘士で、力強く、派手で、芝居じみていて、称賛と同時に憎悪も多く買った。カーキー色の軍服とカフィエ(アラブ人の頭巾)は彼のトレードマークだった。

アブ・マゼンは、正反対といってよい。内向的で、派手なところがない穏健派。彼は反対派を作らない。大騒ぎしないで、信念の闘いを貫く。

マイナス面も彼のそういう性格に起因しているようだ。アラファトは司令官だった。アブ・マゼンは教育者である。アラファトも強制よりは同意を好んだ。これは古代アラビアの知恵で、全員が一致するまで議論する慣わしからきている。

全世界が彼に「改革」を期待している。パレスチナ人が自分たちのことをどうするか、保安部隊をどれだけにするかなどに。

いずれにせよ、要求されている「改革」は困難を極めるだろう。アラブ社会、特にパレスチナ社会では「ハムラ」(大家族制)が重要な役割を果たしている。改革実行の中でそれを無視すると大変な抵抗を招くことになる。幻想は危険である。シャロンは、その幻想につけ入ろうとしているのだ。

シャロンはずる賢いので、正面からアブ・マゼン攻撃をしない。そんなことをすればブッシュの怒りを招くことになる。だから、彼の投げる玉は、「おっしゃる通りアブ・マゼンはいい奴です。でも弱い。彼の政権は崩壊しつつあります」というもの。

アブ・マゼンの重大な失策はむしろ内政面、対人民関係にあろう。就任後一〇〇日、イスラエルからも米国からもいまだに有意味な譲歩を勝ち取っていないことだ。確かにブッシュは彼を援助しようとしている。公然と彼を誉め、彼をけなすシャロンを叱り、重要人物を特使として彼のもとに送った。

しかし、現実面では何一つ変わっていない。

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