[海外] レバノン/「反シリア」「反米」ではなく、新しい流れ模索する民衆勢力
──レポート 高山英敏
「干渉反対と統一」訴えるレバノン五〇万の民衆
三月八日、ベイルートのダウンタウンに「民衆」が集まった。 「外国の干渉は要らない シリアありがとう 」と書かれた大きな旗が掲げられた大きな広場は、見渡す限り人、その周辺の通りという通りも人、人、人の波。 レバノン各地からほとんどの各宗派・各組織の人達が集まり、その数万人以上(レバノンは人口約四〇〇万 )。 二月一四日にハリリが暗殺されて以降、待ってましたとばかりに続く反シリアの抗議行動が大きく取り上げられる中、初めて「外国の干渉拒否」「シリアへの感謝」「レバノンの統一」を訴えた「外国の干渉は要らない ありがとうシリア」のスローガンが掲げられた大集会(今までで一番人が集まったそうです)が開催されました。 集会では、「レバノンの統一」をアピールする為に各グループの旗は使用せず、唯一レバノン国旗だけが振られ、「レバノンの分裂反対」「外国の干渉反対」「アメリカの干渉を許すな」「全ての災いはアメリカから」「アメリカこそテロリズムの源」「イスラエルは世界支配をやめろ」等と書かれたプラカードをかざしながら、シーア・スンニ・ドルーズなどのイスラム各宗派、マロン派やギリシャ正教等のキリスト教各宗派の人々が集まりました。その数、五〇万以上!まさにレバノン多数派の声がベイルートに響き渡りました(一三日は南部の都市で二〇万人)。
シリア叩きの口実となった「ハリリ暗殺」
ハリリ暗殺後すぐ、まるでそれを待っていたかのような「シリア関与説」を元にした、アメリカ・フランスの国連決議一五五九実行要求(レバノンからのシリア軍の即時全面撤退・レバノンの民兵組織の武装解除)とレバノン国内の反シリア勢力の大合唱は、誰の目からも「ハリリ暗殺」をシリア叩きの絶好の口実にしているように見えました。
レバノン唯一の英字新聞である「デイリスター」の翌日の社説でさえ、「ハリリ殺害は重要な事件である。今、一番重要な関心は、誰がハリリを殺したかという事ではない。アメリカとフランスはダマスカス(シリアの首都:編注)がハリリの死に対して責任があるという事をすでに決定しているかも知れないということだ。」と述べていました。
とにかくも、反シリア派勢力の動きは、まるでもうハリリ暗殺の真相究明は済んでしまったかのような「シリアの関与」の大合唱でした。
ハリリのお葬式での二〇万人以上の人々の参列を別としても、反シリアの呼びかけで行われた抗議行動には、二月二一日に一〇万人、二八日の内閣総辞職の時で一万人、最大の三月七日で一五万人の人々が集まリました。
そしてそれを受けて、日本や西欧での報道は、あたかも多数派による「市民革命」が起こっているかのような報道が連日続いていました。
中東情勢を握る米とイスラエル
しかし、実際に行動に参加しているのは、マロン派右派とスンニ派の一部とドルーズ派二派の内のワリード・ジョンブラッド率いる進歩社会党(PSP)だけの少数派でした。
「反シリア」を主張する自分達こそが、あたかもレバノンの多数派を代弁している「民主派勢力」であり、自分達以外の諸勢力を「親シリア=反民主」派という事で一括りにし、世界的に認知させようとしていましたし、同時に親米勢力としての認知も確立させ、自派の勢力拡大につなげようとしていました。
どちらにせよ、今後こうした勢力は、アメリカ・イスラエルとの同盟化路線を進もうとしている事だけはハッキリしているように思えます。