[社会] リーマンブラザーズの素顔 米最古の投資銀行の跳梁跋扈許した許した小泉政権の対米追従路線
マネーゲームのツケを払わされるのは私たちだ
編集部より
「ミスター円」として知られた元大蔵省財務官の榊原英資氏が、ライブドアのニッポン放送株大量取得問題で、「堀江さんは第一幕で舞台から退場です」と負けを断言した。同氏の発言は単なる評論家のものとは重みが違う。リーマン・ブラザーズ証券東京支店のアドバイザーだからだ。ライブドアによるニッポン放送株の大量取得で八百億円を超える資金を提供したのがリーマン・ブラザーズ証券だが、ライブドア・堀江社長は、いわば身内から敗北を断言されたわけだ。 ニッポン放送株をめぐる買収劇で、黒子役として登場しながら、今や「一人勝ち」とも囁かれ始めたリーマン・ブラザース証券。「米最古の投資銀行」の伝統を持ち、M&A(企業の合併・買収)ビジネスで急速に存在感を高めるリーマンの素顔とは?さらに、その戦略は何なのか?探ってみた。(編集部)
合併・買収ビジネスのプロ
リーマン・ブラザーズ証券は、ニューヨークのウォール街に本部を置く投資銀行。国や企業の資金調達やM&Aを手助けし、資本市場で資金運用する金融機関で、二〇〇三年には、世界全体で過去最高となる二四億ドル(約二五〇〇億円)の純利益を記録している。
リーマンは、ウォール街で数奇な歴史をたどってきた。ウォール街最古の伝統を持ちながら、リーマンは、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーという名門から格が下の「第二列」とみられ、身売りのうわさも絶えなかったという。
八四年にはアメリカン・エクスプレスに買収されてしまうが、九三年、社員が株を買い取って独立を回復。翌九四年にはニューヨーク市場に上場を果たした。再起したリーマンは、出遅れたM&A業務の強化にかじを切った。リーマンの手法は「意思決定が早く、自ら資本を投じるのもいとわない」と恐れられ、ライブドアへの資金供給も「リーマンだからできた」と囁かれている。
「漁夫の利」で独り勝ち
ライブドアは、ニッポン放送の買収計画を複数の投資銀行に打診したが、唯一応諾したのがリーマンだった。
このためライブドアがリーマンに発行したCB(転換社債)には、株式への転換価格が市場価格よりも常に一〇%安くできる下方修正条項がついている。株価下落に合わせて転換価格も下がるため、転換した株を市場で売れば、リーマンは労せず一割の利ざやをかせげるわけだ。「転換する価格を毎週、それも時価ではなく、常に『九掛け』とする契約など他に例がない」という。
リーマン社にとっては株価が下がっても、売れば売るだけ利ざやが稼げることから、下限設定された一五七円に下がるまで『リセット』が繰り返される可能性がある。
リーマン社は堀江社長からの借り株も売却できることから、証券市場では「あらかじめ借り株を市場で高値で売って儲けを確定し、株価が下がった後に転換した株を堀江社長に返すのではないか」との見方も根強い。「リーマン社には八〇〇億円のCB引き受けで数百億円の利益が出る」との声もある。
先の榊原氏は「これは戦争。厳しいアメリカ型資本主義の論理で、リーマンはそこのプロ。そこに(ライブドアは)してやられた」と、「格の違い」を強調している。
実際、ライブドアの株価が下げ止まらない。同社はニッポン放送株取得のため八〇〇億円の資金を調達したが、一〇日に株価が下落に転じてからの約一週間で、調達額を上回る九〇〇億円余り(時価総額)が消し飛んだ。ある証券マンも「あとはリーマン・ブラザーズ証券の餌食になるだけ」と予想する。
ライブドアが資金調達のため、リーマンに発行した八百億円分の転換社債は、株価が一五七円まで下がって株式に転換すると、リーマンはライブドア全株式の四〇%を手中にして筆頭株主になる。ライブドアは逆買収され、堀江社長が追い出されるという形になることも可能性としてはあるのだ。株を売って利ざやを稼ぐか、ライブドアの経営権に興味を持つ会社に持ち株すべてを売るか。儲けの多い手を打ってくるだろう」と、証券関係者は語る。いずれにしてもリーマン社の戦略性の高さが際だっている。
フジサンケイグループと小泉政権の深いつながり
ライブドアにとってもう一つの「向かい風」は、森派を中心とする自民党からの批判だ。「放送局の公共性」を盾に「株取引の対象にそぐわない」という中身だが、その裏側には、フジサンケイグループと小泉ら自民党タカ派との深い繋がりがある。