[海外] グローバリゼーションに抗して闘う南米の「持たざる者」たち
政府保有の空きビルを占拠し自律空間へ
一月二五日から三一日にかけて、ブラジル・ポルトアレグレ市において世界社会フォーラム(WSF)が開催された。「もうひとつの世界は可能だ」とのスローガンのもと、資本主義のグローバリゼーションがもたらす戦争と搾取・抑圧に対抗すべく、世界一三五ヶ国より約一六万人が集い、多数の分科会や催しが企画された。
五回目を迎えた今回のWSFは、かなり大規模なもので、湖畔沿いに延々と続く公園を丸々借り切った会場は、端から端まで歩くと一時間近くもかかるほどだった。
連日連夜、華々しいイベントが繰り広げられる一方、街の一隅で私たちは「持たざる者のフォーラム」という行動に取り組んでいた。
前々回、二〇〇三年のポルトアレグレWSFではじめて「声なき者の世界会議」が行われ、グローバリゼーションによって最も被害を受けている階層、すなわち野宿者・失業者・スラム住民・移住労働者・非正規労働者など「持たざる者」の国境を越えた連帯の取り組みが始まった。主にフランスの失業者・野宿者運動が中心となって呼びかけられ発足した「No Vox」(『声なき者』の意)という名のネットワークである。
私たち日本の野宿者運動からもこの動きに合流し、〇四年のムンバイ(インド)WSFや、ロンドンでのヨーロッパ社会フォーラムに参加する一方、昨年秋には「持たざる者の国際連帯行動」として東京で集会・デモを行った。
こうした流れの上にある今回の「持たざる者のフォーラム」には、フランス・ブラジル・インド・ポルトガル・イタリア・ウルグアイなどからの仲間が参加し、日本からは釜パトと渋谷のじれんから、それぞれ一名が参加した。特にブラジルの参加団体であるMNLMは、野宿者(スラム住民も含めた、日本より広い定義である)約三〇万人を組織し、大規模な住宅占拠運動を展開している運動体である。
フォーラム初日の二五日未明、私たちはMNLMの家なき家族たちと共に、ポルトアレグレ市の目抜き通りに面した七階建ての空きビルの鍵を解除し、占拠した。
五年にわたり空家だったこのビルの持ち主は、実は社会福祉関連の行政部局であり、家を持たない人々が街頭やスラムにあふれる一方で、政府保有の空きビルが街のいたるところに存在するという矛盾を端的に示すものとして占拠の対象に選ばれたのだった。
窓という窓から、旗とスローガンがはためく中、数年来の埃は二日にわたる大掃除でみるみるうちに取り除かれ、MNLMの仲間たちによって独自の配電・給水系統が引かれ、地下の厨房では炊き出しの体制が整った。各国の活動家が寝起きし、会議が行われる一方で、子どもたちが歓声をあげて走り回り、夕刻には皆、にぎやかに歌やダンスに興じる自律空間が出現した。会議だけでなく、実力行動によって「持たざる者」の声をあげ、社会的に可視化していくこと。これが占拠の目的であった。
白川公園の強制排除に驚きと怒りの声が
会議では、各国からそれぞれの取り組みを紹介しつつ、今後の共同行動について話し合いが持たれた。インドのダリット(最下層の被差別カースト)運動、ブラジルの先住民であるグアラニ族の参加者が印象的で、日本からは特に、名古屋・白川公園での行政代執行による野宿者強制排除について抗議を呼びかけた。ちょうど私が出発した一月二四日に行われたもので、七軒のテントを六〇〇人以上の役人・ガードマン・警察権力を導入して排除したその手法は、ホームレス特措法体制下での排除・収容主義の暴力を端的に現しているとともに、今後の全国への波及の可能性という点で、きわめて重大なものである。名古屋市の非道にあらゆる人が驚き、怒りを表してくれた。
フォーラム期間中「No Vox」の面々は、各自さまざまな分科会に参加する一方、二九日晩にはMNLMの占拠行動と「持たざる者」への連帯を呼びかける集いが持たれた。行政当局との交渉で二月一日までの居住は認めさせたものの、あくまで強制排除の可能性は消えていなかったからである。二月一五日現在、行政は警察を導入しての排除をちらつかせ、MNLMが再度の交渉を要求する中、緊迫した局面がつづいている。
新自由主義が猛威をふるう南米という社会空間の中で、果敢にたたかう人々の姿に触れられたこと。これが私がブラジルで得た最も大きな収穫である。今後も、世界の持たざる仲間たちはさらに団結をかため、前進していくだろう。