[コラム] 高知県知事選から何を学ぶか?
「庶民派候補」と「草の根」の人々
元祖「改革派知事」=橋本大二郎は強かった。昨年一二月に行われた知事選で、当選証書を貰いに現れたのが、通称「ニコニコの森」と呼ばれている森武彦さんだったのには驚かされた。
森さんは高知オンブズマンの活動家。いつもニコニコしながら裁判所へ向かい、高知県知事を一〇件も告訴している。若手の県職労活動家からも「森さん、もうやめなよ」と煙たがられる存在。
「森さん、反対派の急先鋒ではないの?」と聞くと、「いやー、部下が起こした不祥事の責任者である知事を訴えているのであって、大二郎の改革路線は支持している」という。森さんは社会党時代からの社民党員。
社民党は、対立候補の「松尾徹人支持」だが、統制違反の処分も組めない体たらくで、政策協定も曖昧だ。出口調査では社民党支持者は「大二郎支持」が多く、知事選では政党として機能していなかったといえる。
自民党が七〇人の国会議員を送り込み、総力戦を展開して、選挙を仕切るようになると、社民支持者の橋本票が増えていった。投機的な連中が松尾に戻るや、「昔の県庁再現はごめん」と「草の根」に火がついたのだ。
草の根でも表に出て来るのは、いい洋服を着ている女性層。それなりの地位にある連れ合いがこぼす本音に触れて反応した、自由に動ける時間を持つ階層だ。大二郎支持の共産党とも、庶民層ともずれる。草の根の中でも、草よりも根ッ子の人々は、大ちゃん選挙で自らの行動力をものにしている。根っこの人々と庶民派候補が現れる「素地づくり」をした選挙だったという視点で考えてみたい。
「守旧派」と言われた労組
県下最大の単産、県職労の山崎委員長が、高知新聞の紙上で「橋本知事の下では、やる気のない職員が増えている」とやったものだから、世論から「どんな知事の下でも仕事は大事、やる気のない職員は辞めてくれ。代わりはなんぼでもいる」と袋だたきにあった。こうして「松尾支持」の県職労は、大二郎の勝利後、一週間もしないうちに賃下げをのんでしまった。
私は、高知県のように産業がなく、財政力指数が全国最下位のところでは、公務員がストを打ってまず好条件を確保し、それが庶民に普及する、といういわば「先富論」を評価していた。しかし、それも労組が積極的に公害や政治課題に取り組むという効率からであり、本質的ではない。
今日のように不景気で、組合離れもあって労組が「守り」に入り、市民社会に運動で還元しないなら「先富論」は成り立たない。だが、破綻したからといって県職の賃金を引き下げる「先貧論」では、中小企業の賃金は下がりこそすれ、上がりはしない。
「共産党より左」といわれる労組が、自民党と同じ候補を担いだ矛盾がここにきて爆発した選挙だった。
足りなかった「政策論争」
応援対象にこだわらず、自主的な試みを二例紹介しよう。例えば、政治には素人の横田真明さんが昨春に作成した「橋本大二郎を勝手に応援するホームページ」は、選挙突入後に選管から「書き込みに違反の恐れがある」と閉鎖に追い込まれた。
選挙時のネット使用については、自民・民主ともに活用しており、禁止規定はおかしい。他県の市議には大々的に活用しきった人もいる。具体的に違反行為を指摘をするでもなく、「恐れ」では分からない。弾圧をかけてきた選管役職者名を明らかにさせること、「違反の判断は警察」と言い逃れさせないことが必要だ。
二例目。室戸市議で部落解放運動に関わっていた沢山保太郎さんは、選挙直前に『橋本大二郎 闇の真相』という本を出版した。自民党などが大量購入したが、松尾陣営の新阪急ホテル総決起集会時の販売では叩き出されている。「橋本批判」の本に見えても、自民党や部落解放同盟県連など旧来の政治勢力には、橋本批判を突き抜けてくる内容であったからだ。
選挙戦を通じて、もっともっと暴露が必要なのは、国政との絡みやイラク問題の評価だと思う。イラク派兵への賛否は橋本と松尾で分かれたが、どちらの陣営も言及をしなかった。
両陣営は、このような論議を「不必要」と切り捨てたが、庶民にとっては大事だ。今回の「松尾担ぎ出し」は自民党の中谷元・元防衛庁長官で、選挙直後に陸自幹部に改憲草案づくりを依頼してしていたのが判明して大騒ぎの渦中にある。中谷氏については、本紙一〇七四号(〇一年四月一五日)が「中谷は、自衛隊出身で、高知県の非核条例の時は外務省のパシリをやって条例つぶしに奔走、北朝鮮のテポドン問題では『五〇年に一度の改憲のチャンス』とはしゃいでいた」と指摘している。
地方行政の選挙であろうと陣営の都合に関わらず、こうした部分こそ論争を深め、イラクや朝鮮の問題が、地方に無縁ではないことを明らかにしていくことが必要だ。