[情報] 映画評「クレイジー・イングリッシュ」
作品データ
「クレイジー・イングリッシュ 」(原題:瘋狂英語)
1999年/中国/90分/ドキュメンタリー
監督:チャン・ユアン(張元)
出演:リー・ヤン
中国の「伸びよう」とする果てしないエネルギー
広大なスタジアムで、何万もの観衆が声をそろえて何かを叫び続けている。だがこれは格闘技の競技会でも、宗教の集会でもコンサートでもない、英語の講習会である。壇上でパワフルに弁をふるうのが、この映画の主人公・李 陽(リー・ヤン)だ。
彼は自らの講演でこう叫び続ける、「英語を制し、国を興そう」と。彼のあみ出した「クレイジー・イングリッシュ」と呼ばれる英語の習得法は独特だ。何万という人々が一斉に、発音記号を手振りで表現しながら、大声で英語を繰り返し反復する。大人数の前で叫ぶことで、まず恥ずかしさを克服しようというのが、彼のやり方だ。みんなが同じジェスチャーをしながら英語を叫ぶ姿は、熱気に満ち、圧倒されそうな迫力がある。しかし正直、これに参加したからといって、英語が話せるようになれるのかは疑問だ。
では何ゆえ、彼の講演にこれほどまでに人が押し寄せるのか?それはひとえに李氏のカリスマ性によるところが大きいだろう。彼は講演の中で繰り返す、「英語を話せるようになって、アメリカ・日本・ヨーロッパの三大市場を征服しよう。そして二一世紀は、世界の人々が中国語を学ぶ時代だ。みんな自分と自分の国に自信を持とう!」と。中国は世界で最も古くから高い文明を持ちながら、いつの間にか欧米や日本に先を越されるようになった。そんなどこかコンプレックスを持った中国の人々に、李氏の言葉は自信と勇気を与えてくれる。観衆は落ちこぼれから努力して成功した彼に自分の姿を重ね、彼から英語だけでなく、人生の指針のようなものをも学ぼうとしているのだ。
李氏には野望がある。それは全国民が英語を話せるようになって、国際社会にあらためて中国のすばらしさを再認識させること。たった一人で国を変えようとする、その考えがすでにクレイジー! でも彼はその野望実現のため、国民一人一人の意識改革に取り組むべく、万里の長城から学校、新疆ウィグル地区まで、今日も中国全土を飛び回る。彼のそのあくなきチャレンジ精神と、熱心に英語を叫ぶ大観衆を見ていると、今の中国の伸びようとする果てしないエネルギーを感じる。これは日本人もオタオタしていられないなと、襟を正させられる思いになる映画である。