[コラム] ブッシュ再選とファルージャ攻撃「長期の戦争」への突入宣言
──津田光太郎
八日夜(日本時間九日未明)、米軍は遂にファルージャ掃討作戦の総攻撃を開始した。
それまでファルージャを包囲していた一万余の米軍は、アメリカの大統領選が終わるとすぐに、女性と子供に町から退去するようスピーカーで呼びかけ、「四五歳以下の男性が町に出入りしようとした場合は拘束する」と警告した。要するに、皆殺し作戦を敢行するとの露骨な宣言だ。あまりの事態に国連のアナン事務総長は再三掃討作戦の中止を強く申し出て、最後には事務総長自身が直接電話までしてホワイトハウスに要請したが、ブッシュと米軍は、すでに聞く耳を持たなかった。
今に始まったことではないが、自分たちをカメラで追わせながらこの作戦を敢行する米軍の映像は、何度見ても目を疑う。
「来年一月に予定されるイラクの移行国民議会選挙を成功させるためには、何として武装抵抗勢力をここで押さえ込まねばならない」と解説する人もいるが、そんなものはイラク暫定政府に「非常事態宣言」を出させるための口実に過ぎない。抵抗勢力全体が、ファルージャを最後の砦として抵抗しているのならいざ知らず、米軍自身そんな甘い見通しを信じているとは、とても思えない。それが目的なら、この掃討作戦は軍事作戦としてあまりにも稚拙であり、意味があるとは到底思えない。では何が本当の目的なのか。目を覆いたくなる現実をまざまざと見せつけられながら、何度も問い続けるうちに、「いやそうじゃない。この殺戮行為を、こうやって世界中に見せつけること自体が目的なんだ」と思い至る。そう考えると、すべてに合点がいく。
ファルージャの虐殺は、単なる掃討作戦なんかじゃない。米軍が十分な準備の時間をかけ、露骨な予告をし、大量の撮影機材を持ち込んで今まさに行っている虐殺行為は、合衆国の大統領選に勝利したブッシュが、対イランを焦点化しながら中東を主戦場に計画している、もっと「長期の戦争」を、無謀にも始めたということの恥知らずな宣言だった。そしてもっと大事なことは、ブッシュが、「この『長期の戦争』に『No!』というのなら、まさに今言え!」と大見えを切ったことだ。この恥知らずな挑発に、私たちは、取りわけても日本の私たちには、きちんと答える義務があると思う。私たちが見て見ぬふりを決めこみ、「Yes」とさえ言わなければ、アメリカはこの戦争を決して続けられないのだから。
先に「無謀にも」と書いたのは決して誇張ではない。この「長期の戦争」を支える布陣を張り巡らせるため、アメリカはこの一年間、世界各地に高官を送り込み、「軍の再編(トランスフォーメーション)」への説得と協力要請を続けてきた。イギリスに置いてきた在欧米海軍司令部は、中東を睨んでイタリアのナポリに移す。冷戦期にドイツに前線配備されてきた空軍F─ 部隊はトルコに移し、陸軍の大部隊は一端米本国に呼び戻し、中東への増派・緊急展開部隊として再編し、さらにこの陸軍第一軍団はその司令部を、米西岸北部のワシントン州フォートルイスから日本の「キャンプ座間」に移す。そして、横田の米第五空軍司令部はグアムと統合する。こうやって包囲したつもりの、現在米軍が交戦中の地域を、ブッシュは文学的表現を気取ったのか単に人をおちょくっただけか知らないが「不安定の弧」と名付けた。
しかしこの構想は、日本の小泉首相ですら、ブッシュ再選が決まるまで協力への回答を引き延ばしにしてきた代物だ。そして今、大統領への再選が決まるや否や、ブッシュは回答を待たず、実際に緒戦を開いた。虐殺行為を世界中に見せつけることによって、この構想への承認を強要したのだ。
このブッシュの思い上がりが、とんでもない誤りであったことを、今度は私たちがブッシュに教えてやる時だ。この構想への協力に、私たちははっきりと「No!」の返事を教えてやろう!今なら、この暴挙がこれ以上進むのを止められる。