[コラム] 香田証生さんの死をどう受け止めるか
──相澤恭行
深く共鳴する「自分の目で見たい」という行動の原点
イラクで香田証生さんが人質となった事件は、残念ながら最悪の結果をむかえてしまった。彼が感じたであろう恐怖、そしてご家族の方々の心痛を想像すると言葉もない。
四月の高遠さんたちのとき同様、イラクの市民のネットワークを生かして解放に結びつければと思い、イラク人スタッフと緊密に連絡を取り合っていた。現地の協力者も徐々に増えてきて、長期化すれば解放の可能性も出てくるかも、と思っていたところだったので、本当に残念でしょうがない。四八時間、あまりにも時間が足りなさすぎた。
それにしても、香田さんが捕えられた直後から、世論は「いかに彼を救出するか」ではなく、「彼がなぜイラクに入ったのか」というところばかりに焦点をあて、無謀な若者という印象ばかりが一人歩きしていたような気がする。
前回の日本人人質事件のとき同様、まだ安否がわからないうちから自己責任だと突き放し、ご家族の方々にも中傷の電話などが相次ぐなど、ただでさえ弱い立場に陥った人々をさらに苦しめるという風潮には、本当に悲しくなった。
報道によると香田さんは、「イラクで起きていることを見てみたい」とも言っていたらしいが、それが動機だとすれば、昨年私が初めてイラクに行ったときの目的のひとつ、「いま世界で起こっていることを自分の五感を通して知りたい」とほぼ同じではないだろうか。深く共鳴する行動の原点であり、こうした気持ちを、私は大切にしていきたいと思っている。
彼は結果的に時期と方法を誤り、「死」という取り返しのつかない失敗に至ってしまったわけであるが、何事にも、どんなベテランだって、初めはあるし失敗もある。
今でこそ私も、現地スタッフとの綿密な情報交換により、安全管理には十分気をつけているが、初めてのときは現地の知り合いなど誰もいなかった。これまでこうして無事に活動ができてきたのは、単に運がいいだけだったのかもしれない。
米国頼りの情報収集 米国政府向けのメッセージ
「危ないから行くな」ではなく、なぜここまで危なくなってしまったのか、その原因は何なのかを追究し、危なくないようにするのが政府の役割ではないだろうか。民間人が入っていかなければ復興などありえないのだから。その環境を整えるはずが、全く逆の結果になっている。NGOとしても、このままではなかなか入ることはできない。
この度の日本政府側の対応についてだが、事件後すぐに「自衛隊の撤退はしない」と突きつけたことで、犯行グループとの交渉の糸口を完全に失ってしまった。事件後すぐに、アルジャジーラを通じて町村外相が犯行グループにメッセージを出したので、交渉する気があるということだと思ったのだが。時間稼ぎなどのあいまい戦略、または内外で微妙に言い回しを変えるなど、他にも方法はあったはずだ。
また、その後も盛んに「撤退はしない」「テロリストの脅しには屈しない」の一点張りで、どう考えても犯行グループではなく、アメリカ政府に向けて話しているとしか思えなかった。
また、アメリカ頼りの情報収集による誤報まで、この度の対応でアメリカの属国ぶりを世界に印象付けてしまったような気がする。