[社会] 労働者をこき使う便利な「魔法の呪文」と化した「偽装委託」
──北大阪合同労働組合・書記長 木村真
労働法の「すき間」を突く「偽装委託」が増加
私たち北大阪合同労働組合(北合同)は、豊中と高槻の二つの事務所を中心に、「誰でも、一人でも入れる」組合として活動しています。
ご存知のように、労働基準法をはじめとする労働諸法令によって、労働者の「最低限度の権利」が定められているわけですが、その最低限度の権利すらまともに守ろうとしない企業が多いのが現実です。特に中小零細企業の場合、労基法をきっちり守っているところなど皆無だ、と言っても過言ではありません。
私たち北合同は、当該組合員とともに会社に対して「権利無視は許さない。法律を守れ」と要求し、要求獲得のために闘っているわけですが、明らかな法律違反がある場合は、解決は比較的容易です。労働基準監督署から「是正勧告」といった形で行政指導が出れば、ほとんどの経営者は従います。
無権利を合法化する制度
問題は、グレーゾーン=Aつまり「完全な違法と言い切れるかどうか微妙」「形の上では適法と言えなくもない」といったケースです。
こうしたケースでは労基署は、積極的に動こうとしません。公的機関が消極的な姿勢では、経営者が「労基署から指導が出れば従う」と言っている場合など、その後の展開が難しくなることもあります。
これは、一つにはもちろん労基署の姿勢の問題ですが、労働法体系自体にすり抜けてしまえる「すき間」があり、それが労働者の権利を踏みにじるタチの悪い企業・経営者に、言い逃れの口実を与えてしまっている側面もあります。
そうしたケースの一つの典型が、いわゆる「偽装委託」の問題です。
委託や請負契約の場合、「個人事業主」扱いとなり、雇用関係はなく、ほとんどの労働法は「適用外」となります。社会保険や労働保険(労災や雇用保険)に入る必要はなく、時間外手当も年次有給休暇も不要、という事実上の無権利状態が法的に認められてしまうのです。
経営者にとっては「合法的」に低コストでコキ使える、笑いの止まらない制度ということになりますが、その多くは、「委託契約」という契約書の名前とは裏腹に、実態は雇用関係そのもの、という形だけの「偽装委託」なのです。
退職時の「引き継ぎ費用」「二〇万円払え」と強要
Sさん、Yさんの二人が働いていたベスクルという会社(尼崎市)のケースも、そんな「偽装委託」の一例です。この会社は、「業務委託契約」を結び、大阪北生協の商品配達を行っていました。二人は、この会社でそれぞれ一年ほど働いた後、退職したのですが、契約書によると、「二年以内での退職の場合、『引継費用』なるものを差し引く」とされており、これに従って二〇万円近くを「委託料」から差し引くと通告してきました。
相談を受けて調べてみると、ベスクルの「委託契約書」は全くの名ばかりのもので、勤務実態としては労働者性の高い雇用関係であることがわかりました。委託業務の場合、業務の遂行方法や始業/就業時刻・労働時間なども自ら管理するのが原則ですが、ベスクルの場合、@タイムカードにより時間管理されており、A指示を受けて業務を遂行し、原則として諾否の自由はない──など、委託としての要件を満たしていません。さらに、B使用する車両は会社(生協)所有、Cフルタイムで週六日勤務であり、専属性が高いなど、労基法上の労働者性を強める材料が揃っており、全くの偽装委託です。
生協の配送センターへ出勤して生協職員の指示で働き、生協の車で生協のユニフォームを着て配達するのですから、この場合は、実態は派遣労働者であり、「違法派遣」型の偽装委託と言えます。
そこで組合側は、「契約書自体が無効であり、従って当然『引継費用規定』もまた無効であるから、委託料=給与を満額で支払え」と要求しました。逃げ回る社長をようやくつかまえ、団体交渉に応じさせ(代理人弁護士のみで、社長本人は出てこず)、こちらの主張を全面的に受け入れさせて解決しました。
余談になりますが、大阪北生協では、数年前に大リストラを強行して配送職員を大幅に削減し、ベスクルのような悪質な業者で補っています(恐らくは法違反を知りながら)。経費削減を名目に、「生協のお兄さん」として生協組合員と直接触れ合うスタッフを外部業者に置き換えるのですから、組合員のニーズを汲み取ることよりも、儲けを上げることを優先したというわけです。そうした生協組合員無視の「儲け第一主義」の姿勢が、委託業者の法違反の黙認につながっているわけです。「生協運動も地に堕ちた」と言うしかありません。