[政治] 米国大統領選挙大接戦で不正選挙の恐れ 史上初国際監視団の派遣決定 電子投票にも不正の陰
──米国イリノイ州 宮原文隆
はじめに
一一月二日の大統領選挙が公正に行われたかどうか心配する声が広がっています。要因は二つあります。一つは、マイノリティ(少数派の人種や民族など)・貧困階層の有権者が投票を妨害される危惧です。二つ目は、大統領選挙で、初めて使用されることになったタッチ・スクリーン投票機に対する不信です。世論調査では、「一〇人に四人のアメリカ市民が、電子投票機の信頼性を疑っている」との結果が出ています。(www.findlaw.com)。米国からレポートします。(宮原)
マイノリティ貧困階層の排除
まず、「有権者の排除」という点から見てみましょう。
フロリダ州法では、重犯罪歴のある者には投票権を認めていません。四年前の大統領選で、約六万人ものマイノリティの有権者が、不当にも前科者扱いされて投票できませんでした。五三七票差でブッシュ氏が勝利したことになりましたが、フロリダ州でのマイノリティ有権者の九割は、民主党支持でした。また、すべての票を再開票しませんでした。似たような事態の再来が懸念されているのです。
すでに、公正を欠く言動が報告されています。九月、フロリダ州のグレンダ・フッド州務長官(共和党)が作成した前科者のリストに、二万二千人以上のアフリカ系アメリカ人が載っていたことがわかりました。その多くは民主党支持者です。一方、共和党支持の傾向が強いヒスパニック系は六一人でした。信憑性の疑義がおこり、リストは廃棄されることになりましたが、その後、どのようなリストが使われているか不明です。
また、同州務長官は、「有権者登録書の中でアメリカ市民であることを宣誓していても、アメリカ市民のボックス欄にチェック・マークを書き込んでいない場合は、登録を無効にする」と主張しています。
投票の際、写真付き身分証明書を携帯していない場合は、誓約書にサインして投票を済ませ、後で本人であることを確認する方法があります。フロリダ州では、この便宜的な方法があることを投票所で有権者に告げる必要はないと言っています。マイノリティや低所得者の多くは、写真付き身分証明書を持っていません。
九月七日、オハイオ州のケネス・ブラック州務長官(共和党)は、「有権者登録用紙はポスト・カードのような厚さの紙でないと受付ない」との命令を発動し、物議をかもしました。「厚い紙の方が保存に適する」というのが理由でした。市民団体の抗議で、普通の紙でも受付けると発表しましたが、命令は撤回していませんし、この数週間の間に届いた普通の紙の厚さの有権者登録書がどのように扱われたかも、明らかではありません。
アフリカ系アメリカ人学生への脅し
二〇〇二年に制定されたHelp America Vote法(HAVA)では、有権者が、他地区の投票所に来た場合でも、そこで一時的に投票を済ませ、後で有権者の妥当性を検証することを認めています。ところが、オハイオ州務長官は、「この暫定的な方法での投票を認めない」と言っています。
アメリカ市民は、居住地で有権者登録して初めて投票することができます。テキサス州のPrairie View A&M大学では、地元検事が学生に対して、「キャンバスで有権者登録をしたら起訴する」と脅しました。この大学の学生の大多数が、アフリカ系アメリカ人です。法律は、学校で登録することを認めています。
肌の色に基ずく投票権差別を禁止した合衆国憲法修正第一五条が、成立したのは一八七〇年。その後一九六〇年代までの一世紀の間、南部諸州を中心に、有権者登録に際して人頭税や読み書き試験を課したりするなどの差別的慣行が、マイノリティの市民を投票所から巧妙に遠ざけていました。一九六五年には公民権運動の高まりのなかで、選挙における差別を禁じる投票権法(Voting Rights ACT)が制定されました。
しかしそれ以後も、陰に陽にマイノリティの人たちへの投票妨害が見られるのは、アメリカ合衆国の裏面史のひとつです。近年特徴的なことは、前述したように公職の地位にある人が職権を利用して投票妨害に関与していることです。
驚くべきは、それを公言して憚らない人物まで出てきたことです。「この選挙の時期、デトロイトの投票を禁じないと大変なことになる」(ジョン・パパジョージ・ミシガン州議会議員・共和党)。デトロイト市民の八割以上はアフリカ系アメリカ人です。 このような事態に対して、NAACP(一九〇九年設立の全米有色人種地位向上協会)やThe Lawyers' Committee for Civil Rights Under Law(法的市民権のための法律家委員会―ケネディ大統領の指示で一九六三年に設立)、ALF―CIO(米国労働総同盟・産別会議)など六〇団体で構成されるElection Protection(「公正選挙防衛連合」とでも呼べようか)が、全米規模で投票の権利を守るための草の根活動を行います。
投票当日は、五〇〇〇人の法律家・法律専攻の学生を含む、二万五千人の訓練を受けたボランテイアが、過去にマイノリティ有権者への投票妨害が顕著であった一七州三五〇〇地区の投票所に待機し、重点的に監視します。
米市民が「公正選挙防衛連合」欧州から100名の国際選挙監視団
一方、先日行われたアフガニスタン大統領選挙を監視しているOSCE(ウイーンを本拠とする欧州安全保障・協力機構)からおよそ一〇〇人の監視団が、米国大統領選挙を監視するためやってきます。海外からの監視チームの受け入れは、アメリカの大統領選挙史上初です。
事の起こりは、二〇〇〇年大統領選のフロリダ州の教訓から、エデイ・ジョンソン下院議員(テキサス州)をはじめとする一三人の民主党議員が、国連に大統領選挙監視団の要請をしたのがきっかけでした。
国連のアナン事務総長は、回答として「米国政府からの正式要請」を求めました。そこで民主党議員は、パウエル国務長官に要望したのですが、国務長官は、国連ではなくOSCEに派遣を要請しました。