[情報] 映画評「バッファロー'66」
データ
(1998年/アメリカ映画)
監督・脚本・音楽・主演 ヴィンセント・ギャロ
出演 クリスティーナ・リッチ、アンジェリカ・ヒューストン、ミッキー・ローク他
映画評
アート系の作品って、静か過ぎたり、小難しい映画も多かったりするのだが、これは難しいことを考えなくても楽しめる、チャーミングで大好きな映画だ。ゴダールの映画のような実験的な編集とポップな映像、かっこいいサントラも素晴らしいが、この映画の最大の魅力は、主人公のキャラクターにある。ヴィンセント・ギャロ演じるビリーは、悪党ぶっているけど、実際はシャイで潔癖で気が弱く、虚栄心が強いのにどこか憎めないチンピラ。最初はヒネた子供みたいで憎たらしいのに、見ているうちにどんどん母性本能がくすぐられて、かわいい≠ニ思ってしまうから不思議だ。
ストーリーは、ビリーが五年ぶりに刑務所を出所するところから始まる。実はスーパーボールで一万ドル負けて、組織の金を使いこんだ彼は、その埋め合わせとしてボスの友達の罪を被り、刑務所に入っていたのだ。街に着いて両親に電話をした彼は、ついはずみで「今から妻を連れて帰る」と約束してしまう。しかし実際、妻などいない彼は、通りすがりの女性を誘拐まがいに拉致し、「一日だけ妻を演じてくれ」と頼む。その女性というのがクリスティーナ・リッチ演じるレイラで、最初反目しあっていた二人が、行動をともにしていくうちに惹かれあっていくというラブストーリーだ。
ユニークなのは両親との対面シーン。アメリカ映画で家族といえば、大げさなスキンシップとか温かなイメージがあるが、この映画ではお互い無言のまま一言もしゃべらない。母親は息子よりもフットボール中継の方が大事で、父親も息子と言葉を交わせばけんかばかり。しかも、家庭には子供時代のビリーの写真は一枚しか残っていないという始末(実際、これは監督の両親をモデルにしているらしい)。そんな愛のない家庭で育ったからか、ビリーは極端に女性に潔癖。最初レイラにも自分に触れることを許さないが、彼女の優しさにだんだん心を開いていく。
終盤、スーパーボールでキックミスをして、チームを負けに導いた選手を逆恨みしているビリーは、復讐のために彼の経営するストリップ・バーに乗りこむのだが、結果はどうなるのかは見てのお楽しみ。結構、家庭のシーンなどシビアに描かれているところもあるのに、どこかユーモラスで暗さを感じさせない。泣けるような感動大作ではないけれど、ところどころに「おおっ」と驚かされる斬新な表現があって、最後には少し温かい気分になれるお薦め映画です。(評者 齋藤 恵美子)