[社会] おバカな役人と小ずるい「ITゼネコン」/投資総額の半額=7兆円は稼動もせず?!
編集部より
「住民基本台帳カードでひらくIT社会!」と、昨年八月に、鳴り物入りで実施された住民基本台帳カードの発行は、大阪府内を見ると能勢町・千早赤阪村が一〇枚以下、他にも発行枚数が一〇〇枚に満たない自治体が、二〇近くある。全国集計でも、発行総数約二五万枚=人口の〇・一九四%で、総務省の思惑は大きくはずれ、破綻寸前だ。総務省は稼働から七ヶ月後の今年三月時点で三〇〇万枚の発行を予定していたが、一年を過ぎて一割にも満たず、これに投資されたカード発行予算=約三〇億円は、高コスト非効率の無駄な公共投資となっている。
しかし、こんな惨状でも笑いが止まらないのが「ITゼネコン」と呼ばれるIT関連巨大企業だ。住基ネット全体のコストは、構築費八〇五億円、維持費一九〇億円/年と試算されている。これをNTT、富士通、日立及びNECの四大グループで山分けし続けている。
政府・自民党が二〇〇〇年にミレニアム・プロジェクトとして立ち上げた「e―JAPN」計画は、建設ゼネコンに代わる「ITゼネコン」を生み出した。「ITゼネコン」の儲けの手口と、まんまと乗せられ税金を垂れ流し続ける官僚とのもたれ合いを、連載でレポートする。(編集部)
高値購入、無駄な開発、重複発注
「電子政府構築」と銘打った情報システムに係る政府・自治体調達の市場規模は、中央官庁(一・二兆円)、地方自治体(一兆円)併せて約二・二兆円(二〇〇一年度)にのぼり、企業を含む我が国情報サービス全体の約二割のシェアを占める。銀行を筆頭とする私企業のIT投資が一段落しているなか、電子政府(中央、地方)の本格化に伴い、今後も膨大な政府・自治体調達の需要が発生すると予想されている。
ところが、政府及び関連機関の情報システム受注シェアはNTT、富士通、日立及びNECの四大グループで約六割、サンマイクロシステムなどを含めた一〇大グループで四分の三を占める寡占状態となっており、「ITゼネコン」と呼ばれ、巨大な利権構造を作り上げている。
しかも、国内の二〇〇〇年以降のIT投資のうち約七兆円、投資総額の約半数が中途断念・納期遅れなどのため不良資産化して実際に稼動していないというのだ。
こうした高コスト・非効率な公共投資が問題になったのは、皮肉にも超低価格入札の頻発であった。下に示す表は、公正取引委員会による注意例示もしくは警告の対象となった政府調達案件である。東京都の文書管理システムは、八五〇〇万円の予定価格のところを日立製作所が七五〇円で落札した。ちなみにこの案件の入札最高額は東芝の一億三二〇〇万円で、日立は実質「タダ」で受注したのである。
「ただより高いものはない」というが、こうした超安値入札はこれの典型だ。狡賢いITゼネコンによる利益確保の仕組みは、初年度に利益を度外視した安値で受注し、二年度目以降いわゆる「随意契約」として利益を確保するというものだ。システム開発は、一度構築されてしまうと核の部分は開発企業独自のブラックボックスになっているため、他の業者に乗り換えることが非常に困難で、落札企業は、二年目以降随意契約で言い値を請求できるのである。
これに官僚機構の「縦割り主義」の弊害や政府・自治体に情報システム調達の専門家がいないことも重なって、暴利をむさぼる土壌ができあがっている。たとえば、一二府省の給与計算ソフトは、国家公務員の給与体系は一つなので本来一でよいはずなのに、それぞれの役所がバラバラに発注している。そもそも、給与計算や文書管理のような簡単なシステムは、汎用ソフトを基本にすれば済むはずである。同じようなことが三二〇〇の地方公共団体でも行われており、調達スキルの向上以前の問題も大きい。
こうした発注者側の問題を観てみる。