[政治] 中東シフトの米軍再編 「充分な訓練場・実用に耐える装備のメンテナンス場所の確保」目的に
──津田光太郎
ブッシュの選挙対策と「削減」という誤報
「九月一一日(NYテロ)の、決して忘れてはならない教訓の一つは、脅威が具体化する前に対処しなくてはならないということだ」。
この八月一六日午前、ブッシュ米大統領はオハイオ州シンシナティで開かれた全米最大の退役軍人団体「海外戦争退役軍人」の年次総会でこう演説をはじめ、「米軍は過去数十年間にわたり欧州とアジアに駐留し続けてきた。今や存在しない対ソ脅威から我国を防衛するためにだ。今我々は、これからの一〇年間で六〜七万人の兵士を呼び戻し、家族と文民の職員一〇万人を帰還させる。より機動的にかつ柔軟に軍を展開するため、われわれの態勢が変わらなくてはならない」と、今後一〇年間かけて行うという米軍の再編計画を公式に表明した。
米大統領選民主党候補のケリー上院議員陣営がすぐさま反応したように、大統領選挙を目前にしての派手な演説であるのはミエミエだが、この計画が予定する主要な舞台のドイツ駐留米軍の規模は、現在でも在欧州米軍一一万五〇〇〇人のうち、実に約七万三〇〇〇人の兵士を数え、家族なども含めると米軍関係者は約二〇万弱にものぼるという。そのうちドイツに展開する「第一機甲師団」「第一歩兵師団」の計約三万人がドイツから去るという計画は、時代が大きく変わったことを実感させる。
ただ、ケリー上院議員が心配するような「敵に誤ったシグナルを送る」という内容のものでは全くない。日本のメディアでは、「米大統領、欧州・アジア駐留軍最大七万人の削減を発表」といった見出しを付けたり、「アジアと欧州に展開する米軍計二〇数万人のうち、約三分の一に当たる兵力六万〜七万人を今後一〇年間で撤退させる」(産経新聞)などと、この地域から在外米軍の規模が三分の二に大きく削られていくような、殆ど「誤報」と言ってもいい報道が平気でまかり通っている。確かに在ドイツの米軍については、仮に全部でなくても一〇年かけて本国に「帰還させる」と表現されてはいる。しかし在韓米軍については、韓国を去る事は決まったものの、どこに再配置されるかは決まっていない。つまり「アジアから撤退する」という話ではない。ドイツについても重武装の陸軍師団は帰還させるが、替わりに緊急展開能力の高い「装甲車部隊一個旅団」を新たに派遣するというのだから、決して額面通りではない。