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更新日:2004/08/25(水)

[海外] パレスチナ/ラファ侵攻前日の奇妙な「平和集会」
──訳/脇浜義明

イスラエル軍国主義について ラファ侵攻前日の奇妙な「平和集会」
──六月三日 イツハク・ラオル (小説家)

五月一六日(日)、IDF(イスラエル国防軍)が周到な準備をして待っていたラファ攻撃の前日、参謀長モシェ・ヤアロンが、ラファ攻撃は「ほぼ最後のチャンス」で、「最適の条件が整った」と言った。「最適の条件」というのは、ガザ地区で一三人のイスラエル兵が殺害されて、その報復を求める世論が高まっていることを指すらしい。しかし本当のところは、早晩入植地解体・撤退するのだから、今のうちにできるだけ多くラファを破壊しておこうというものだろう。

イスラエル軍国主義とは、国民が軍という巨大で慈悲深い装置に寄せる「信仰に近い信頼」である。軍は、いつも「敵地で戦っているうちの若いもん」─息子・子ども・敵の包囲の中でけなげにも闘っているダビデ─という言葉で語られる。軍は、永遠の犠牲者であるユダヤ人そのものである。だから敵はいつも凶暴な大男ゴリアーテになる。「慈悲深い」軍に対して、親や近所の人の家が破壊されたのに抗議して、素手で戦いを挑んでくる幼いラファの子どもたちも「ゴリアーテ」で、だから殺さなければならないのだ。

軍と恋愛関係にある平和運動

IDF大軍のラファ侵攻に前夜、五月一五日、イスラエル穏健派市民一五万人がテルアビブのラビン広場で大「平和集会」を開いた。ここ数年間で最大の集会であった。主賓スピーカーは、シモン・ペレス。彼の演説はテレビ中継され、今やリクード党の専用チャンネルとなっている国営テレビでも放映された。イスラエル三大新聞も一面扱い。「我々は左派ではない。我々は多数派国民だ」とペレスは言った。しかし、そんなことを言うために集会を開いたのではない。また、毎日繰り返されるIDFの殺戮や、この戦争を決して終わらせないように仕組んだIDFの戦略への抗議の集会でもない。ガザ入植者に、国民が反対していることを誇示する集会だった。貴重な兵士の生命が犠牲になったのは、入植者を守るためだった。こういう事件はイスラエル人を「何とかしなければ」という思いに走らせる。その思いは大概二つの方向へ進む。デモ・集会への参加か、軍事行動の熱狂的支持。

西側世界は、イスラエルの平和運動が、軍と恋愛関係にあることに気づいていない。平和運動の中で、軍が戦争挑発行為や残虐行為をやっていることが口にされることはめったにない。「戦争犯罪」も禁句である。それは、シャロンばかりか、神聖な軍に「悪」の刻印を押すことになるからである。

集会主催者(ピース・ナウ、労働党、メレツ)は、ヨム・トヴ・サムヤ将軍をゲストに招いた。平和集会に軍人を招いた。しかも招かれた軍人は、もう戦争は嫌だ、自分は間違っていたと言うために来たのではない。彼は南部戦線指揮官で、数年間ガザで戦争挑発を繰り返した人物である。彼の指揮のもとで無数の家屋が破壊され、二〇〇一年冬の侵攻で貧しいラファの住民が着の身着のままで寒空へ放り出されたのだ。「戦争犯罪」という言葉が頻繁に使われ、良心的兵役拒否者の「拒否する勇気」運動が生まれたのは、彼の「栄光の日々」時代であった。兵役拒否者がこの集会で発言の機会が与えられることはないばかりか、そもそも参加すら拒否されていた。

集会は、事実上翌日のラファ侵攻にゴーサインを与えるものだった。一五万人の穏健派集会参加者の誰一人として、「ラファ侵攻を止めよ」と発言するものはなかった。シオニスト左派は、またもや本当の戦いを戦わないために架空の戦場を作り出したのだ。かくしてまたもや、世界から見放され、貧しく、孤立したパレスチナ住民へのバッシングが始まったのである。彼らはまたもや赤ちゃんを抱き、寝具を抱えて、命からがら逃げまどうこととなった。

イスラエルの社会学者アリーナ・コーンによれば、パレスチナ人のゲットー化が進行しているという。パレスチナ人をバラバラにして、それぞれイスラエル軍支配下のゲットーに収容するのだ。すでにゲットーは数多くあり、どんどん増殖中である。各ゲットーの内部条件はそれぞれ異なる。ラマラは世界の注目が集まるから、かなり普通に近い生活ができるようにしている。ヘブロンは人目につきにくい。ラファはもっと隔離されたところだから、子どもを射殺しても、偶発事故で押し通せる。

この三ヶ月間、西岸地区で壁建設に反対する住民の非暴力デモが頻発、軍は銃でもって鎮圧しているが、隔離されたゲットー内の殺人で、軍が責任を問われることはない。イスラエル兵や民間人が犠牲になった場合、外国テレビまで含めたメディアがそれを伝え、失われた犠牲者の未来までが語られる。ラファで殺されたパレスチナ人の子どもには未来がなかったのか?そう、なかったのだ。だから殺され、数日で忘れられる。パレスチナ人犠牲者のことがテレビで追跡取材されることはない。ときどきドキュメンタリーが撮られることがあるが、その放映をめぐっては是非がさんざん議論され、「ユダヤ人差別」性の有無を点検される。

確実に安全無傷なのはイスラエル軍のみである。軍は自らをイスラエル国防軍と呼んでいる。

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