[コラム] 脱暴力を呼びかける第16回「泣くことは感情の開放」
「泣けない男」は自殺しやすい!?
前回、産経新聞の「主張」欄=「男の子のくせに泣くな」とする意見に対して、そういった権力者の主張は「戦争への道」だと指摘した。ここでは、「泣く」ことに関するもう一つの面を見てみたい。「泣けない男」が「自殺」する、という面だ。「泣けない男」が暴力をふるう傾向が強いことは、この連載で何度も主張してきたが、その一方で、自殺する傾向も強いのだ。
二〇〇〇年の統計によると、日本人の自殺者総数は三万一九五七人。そのうち男が二万二七二七人(七一%)、女が九二三〇人(二九%)となっていて、男が女の二・五倍となっている。年齢比では、高齢者が多い(六〇歳以上が一万九九七人)。ちなみに欧米では、男が女の三倍から四倍となっているという。ただ中国だけは、女性の方が高いそうだ。
「バブル崩壊後、中年男性の自殺が増えている」と新聞報道で読んではいたが、調べてみるまでは、こんなに男性の方が多いとは思わなかった。
日本で一番自殺率が高い県は、秋田県だという。朝日新聞秋田支局が調査したものが、本になっている。秋田県では、六五歳以上が六割にもなっているのに対し、逆に高齢者の自殺率が一番低い県は、沖縄だという。そこで秋田大学が両者の違いを調べたところ、秋田の高齢者は、大家族(六人以上)の中で過ごしているのに対し、沖縄では、夫婦だけや一人暮らしの高齢者が多いという。ということは、淋しさから死ぬわけではないようだ。
秋田での高齢者の日常のあいさつは、「働いているか?」「頑張っているか?」だという。秋田の人は大家族傾向で、よく働く。でも一方で忙しい。見栄っ張り、とも指摘されている。働けなくなった時、「家族に迷惑をかけちゃいけない」と思うのだろうか?
バブルが崩壊して、リストラにあった男性が、「家族を養えない」ことに絶望して自殺するのだという。
一方、沖縄は失業率が高く、平均収入も全国最下位だ。だけど、私の知っている沖縄の高齢者は、人生を楽しんでいるように思う。三線を弾き、島唄を歌い、踊っている。友だちも多い。
「男らしさ」は泣くことを拒絶する
DV(家庭内暴力)をふるう男性が、妻に逃げられた時、自殺することが多い。逆に、夫から暴力をふるわれていることで、自殺する女性は少ない。
この違いは何なのだろう。
高橋祥友さん(精神科医)は著書の中で、「@生物学的に男性の方が、衝動性をコントロールする力に劣る。A男性は、より危険で致死性の高い方法をとる。B他人に救いを求めるより、自力で解決すべきである、といった社会的制約がある」と書いている。
いずれも、もっともだと思われるのだが、私は、女性で自殺する人が少ない理由の一つに「泣く」ということが大きいと思っている。「泣く」というのは、自力の弱さを認めることであり、人に「助けて」とアピールする行為だ。
「男らしさ」とは、「自分で問題を解決すること」でもあるとされているので、「泣いても問題は解決しない」と思い込んでしまったり、泣くと「負け」を認めることになる、として泣かない男が多い。
しかし、「泣く」と気持ちはスッキリして、切り替えができることが多く(できない時もあるが)、また意外と「元気」になったりする。「愚痴」を言ったり、泣いたりして、「友だち」に共感してもらえると、落ち込んだ気持ちがスッキリする。
すると「よし、明日から出直そう!」とか「誰かに助けてもらおう」とか、前向きになれる。共感してくれる友だちがいないと、「愚痴」や「泣く」は、余計引きずることもある。それがまた「怒り」を拡大することもある。(つづく)