[海外] シカゴ反戦集会/軍人家族が語る
──宮原文隆(イリノイ州アーリントンハイツ)
高校出ても、良くて最賃仕事・最悪は失業 軍隊へ行くしかないこの社会こそ問題だ
四月一八日、シカゴ郊外のエバンストン市内の教会で、「軍人家族は語る」(Military Families Speak Out: MFSO)という反戦グループの講演会があった。エバンストン市は、イリノイ州で最初に「米国・愛国者法」反対の市議会決議を採択した市で、住民の政治的関心が高い地域として知られている。
この日の講演会は、「平和のための退役軍人会」をはじめとする近隣の二〇の市民グループが共催。軍人家族を代表する三人と地元選出の民主党国会議員一人=合計四人の講演会に、会場が満席となる約二五〇人の聴衆が集った。
「軍人家族は語る」の創設者の一人であるナンシー・レシンさんによると、MFSOは、「軍人家族としてイラク戦争に反対する特別の必要と役割がある」との自覚から、イラク侵攻前の二〇〇二年一一月、ボストン在住の軍人二家族から始まった組織だそうだ。現在では、海外に駐留する軍人家族も含め、一五〇〇家族がメンバーになっている。
最初の講演者・ナンシーさんは、二六歳になる海兵隊員の息子がイラクから帰郷中であると前置きし、「ブッシュ政権の戦争準備の理由は、@イラクの大量破壊兵器の存在、Aサダム・フセインとアルカイダとのリンク、そしてB米国への差し迫った脅威であったが、今となっては、この戦争は、オイル・マーケットのためであることは明らかだ。わたしたちの夫、息子、娘は、国を守るために軍人となる契約書にサインしたのであって、国際法上違法な戦争のためではない」として、「占領は解決ではない。兵士たちを故国にもどそう」と締めくくった。
海兵隊員の反戦ママ
続いて演壇に立ったシカゴ在住のフラン・ジョーンズさんは、シカゴ・トリビューン紙一面トップに「海兵隊員の反戦ママ」として紹介されたこともある活動家である。
「三二歳の軍曹であった息子は、四月二日に除隊した」と報告した彼女は、「戦場で息子が殺されることと同じように、彼が他の者にするかもしれないことを考え恐れていた」という。息子が捕虜になり拷問を受けるかも知れないという心配は、息子自身が危害を加える側になるかも知れないという心配にも重なったのだ。
「戦争に反対することが、戦場のひとりひとりの兵士を支援することだ」と語って大きな拍手を受けた彼女は、「嘘にもとづき兵士たちを戦場に送っているのが、今行われている戦争だ。兵士たちの命運はわたしたちの運動にかかっている。愛する者たちを帰還させるよう、それぞれの地元の国会議員に働きかけよう」と締めくくった。
さらに講演後の質疑応答のなかで彼女は、「高校卒業をした後、良くて最低賃金の仕事、最悪は失業という実情のなか、軍隊へ行く選択肢しかないこの社会こそ、深刻な問題だ。また、学校当局は、生徒の氏名・住所の情報を軍隊リクルート局に提供しないと、連邦政府から補助金がもらえない状況に置かれている(注参照)」とも報告した。
誰が一体愛国者なのか?
次に、先に紹介したナンシー・レシンの夫であるチャーリー・リチャードソンさんは、「ベトナム戦争戦没者慰霊碑を思い起こして欲しい。早く撤退していれば、戦死者数をあのように大きくすることは避けられた。今のイラク戦争も同じだ。…ブッシュ政権の閣僚、そして国会議員のだれ一人として、子息をイラクに従軍させている者はいない。誰が一体愛国者なのか?」と訴えた。
静かに語る三人の結論は一つだ。「兵士たちを故国に戻そう」という呼びかけである。しかし、そのための具体案はない。「戦争反対!」の意思表示が精一杯のところなのだろう。
ブッシュ以外なら誰でもいい
二〇〇二年秋の「イラク攻撃容認決議」に、六三%の民主党議員が反対した。その一人であるジャン・シャコースキー議員は、戦争遂行を止めることができなかったことを詫び、「軍人家族の皆さんを、とてつもない不安に落といれてしまった」と涙を拭った。
そして「今年の大統領選挙は、共和党か民主党かの選択ではない。ブッシュ政権か民主主義かの選択だ」と民主党候補への支持を訴えた。
これに対し黒人女性が「民主党・ジョン・ケリー候補は、戦争決議に反対していない」と問いただすと、すかさずシャコースキー議員は、ジョン・ケリーへの投票を呼びかけた上で、ラルフ・ネーダー氏への投票についても「彼への投票は、民主党票を減らすことであり、結果的にブッシュに投票することと同じだ」と応えた。拍手を送る者、親指を床に向けて下げる者、会場の反応は二分された。
最後にチャーリー・リチャードソンさんが、「イラクに従軍している家族に敬意と励ましを表そう」と呼びかけると、会場で起立した約一五人の軍人家族に対する拍手はしばらく止まなかった。「兵士たちを支援することは、戦争支持を意味するものではない」そんな思いが伝わってくる静かな拍手であった。
白昼堂々と、軍人家族が戦争に反対している。それも、イラク侵攻が始まる数ヶ月前からだ。これを勇気ある行動、アメリカの自由と評するだけで終らせてはいけない。誰にでも、理屈抜きで守るべき自らの価値というものがある。心すべきは、その価値が蹂躙されるとき、立ち上がる人々がいるということではないか。そして、これはアメリカの国だけのことではない筈だ。
(注)No Child Left Behind ACT(落ちこぼれゼロ法)
2002年1月、ブッシュ大統領が署名。米軍は、兵士募集のために高校生徒の名前・住所・電話番号を取得できる。非協力校は、連邦補助カットの可能性がある