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更新日:2004/06/07(月)

[海外] パレスチナ/「ガザ撤退方針」を否決されたシャロンの誤算

「占領地入植運動」という怪物を作り出したシャロン

ユダヤ伝説では、「ゴレム」は強力な人工怪物で、マルハラルというラビが土で作り、神の秘名を記した紙片を舌下に入れて、生命を吹き込んだ。ゴレムは、反ユダヤ主義の暴徒を追い払って、ユダヤ人を守っていたが、ある日、創造主に反抗するようになり、ユダヤ人社会に災いと破壊をもたらすようになった。マハラルは、舌下から紙片を抜いて、元の土に戻した。

シャロンは、「占領地入植運動」というゴレムを作った。このゴレムは、大いに彼の力になるはずだった。何年にもわたって入植者を育て、資金を与え、彼が政府の要職を渡り歩いている時に、その職権を利用して多くの便宜を図ってやった。七〇年代初期南部戦線司令官をしていた時、地図を広げては(シャロンはいつも地図を持ち歩いていた)、入植地建設の重要性を、誰彼なしに説いた。彼によれば、地中海からヨルダン川まで広がる「エレツ・イスラエル」(イスラエルの地)全土をユダヤ人国家とし、パレスチナ領をバラバラにして国家建設ができないようにするために、入植地建設が重要であり、それがシオニズムの夢の実現であった。

まるでブレーキがないブルドーザーのように、彼は政敵を蹴散らして、何百億jもの資金を入植地建設に振り向け(他の予算費目で使用されたので、正確な数字は不明)、入植者に有利になるように法律を捻じ曲げ、入植者を守るために大軍隊を配置した。かくして占領地には、入植地のネットワークができ、特別道路がパレスチナの村や町を引き裂いた。

シャロンが「(ガザからの)一方的撤退」を口にした時、まさか入植者が反抗するとは思わなかった。何しろ自分が彼らのパトロンで、自分が彼らを育てたので、大きな貸しがあるはずだった。自分としては、まったく妥当な取引を提示したつもりだった。入植者の八〇%がいる大入植地を、将来イスラエル領として組み入れる支払いに、少人数の僻地入植地を手放す(訳注/ガザには一二〇万人のパレスチナ人の中に、七〇〇〇人の入植者。とてもユダヤ化できないので、これを捨てて、代わりに二五万人の入植者がいる西岸地区の六〇%近くをイスラエルに併合する計画だった)のは損のない取引で、ブッシュ大統領のお墨付きも貰ったのだ。このやり方だと、あまり世界世論を敵に回さずに、入植事業を守れ、西岸地区のおいしいところを手に入れることができるのだ。

しかし、ゴレムはすでに、自分なりの論理とダイナミズムを持っていた。僅かの入植地も捨てる気はなかった。とりわけそこは、狂信的原理主義者の拠点でもあった。それに一度でも入植地を明渡せば、それが前例となって全入植地の危機につながる。

マハラルと同様、シャロンもゴレムを見くびっていた。今やゴレムを作るより解体することの方が困難となった。先週シャロンはインタビューで、「入植者は一握りの人々だ」と言った。実際、入植者はイスラエル人口の四%にもならない。

しかし、数だけが社会的力を反映するものではない。民主主義社会では、少数の結束と決意の固い狂信的集団が、数は多いが無関心で気力のない多数派よりも影響力が強い場合がある。

和平を破壊する入植者たちの横行は今なら止められる

シャロンは、入植者が一般社会で人気がないことを計算に入れていたにちがいない。何しろ彼らは粗暴で無法だ。喋り方・服装・行動・身振りすら異様で、一般社会は彼らを風変わりなカルトと見ていた。その連中が、イスラエルの経済や社会の再活性に必要な資金を消費していることが、ようやく一般国民にもわかってきた。

しかし長年月のうちに、入植者は独自の支配力とプロパガンダを築きあげていた。根気よく軍隊にも侵入、今では、かつてはキブツの活動家が占めていた要職を占めるようになった。独自のメディアも立ち上げた。左派が、事実上自分たちのメディアを放棄したのと対照的である。入植者は巨額の資金を所有しているが、それは国庫からさまざまな経路で流れ込んでくる金、米国のユダヤ系多国籍企業からの寄付金、米国のキリスト教福音派原理主義者からの援助金であった。

いったい、よりにもよってリクード党に、「撤退計画」の賛否を問うなんて、シャロンは発狂したのか?リクード党は「入植者が強い力を振るえる唯一の土俵」であることを忘却したのか?

勝利に酔った将軍とは、そういうものだ。傲慢で、対象を軽視してしまうのだ。政治権力の頂点に立ったシャロンは入植者を見くびり、まさか集団で自分の家へ押しかけてくるとは思わなかった。彼らが国家の金で、充分な兵站機構を持っていることを過小評価したのだ。彼らはよく訓練された集団で、すべてのメシア的セクトと同様、族長のもとに絶対服従・絶対信仰、絶対規律で訓練されている。

「理屈ではシャロン案に賛成だが、心情的には入植者を支持する」と、あるリクード党員が言った。これはまさしく自然な反応だろう。赤ちゃんを抱いた入植者夫婦(入植者の絵にはいつも赤ちゃんが登場する)が戸口に立って、「私たちを家から追い出すのですか」と訴えれば、それに逆らうことは難しい。何しろ、生まれてからこの方ずっと、「エレツ・イスラエル」全土を所有することがシオニズムの夢で、入植者は「地の塩」だと、他の世界のことを一切無視して教え込まれてきたのだ。

しかし、ここで認識しなければならないことは、党員投票でシャロン案に反対した党員は、イスラエル人口全体の二%にもならないことだ(前回の選挙でリクードに投票したのは有権者の三〇%以下。その三〇%足らずのうちの四分の一が、今回の党員投票に参加資格があったリクード党員だ。その有資格者の内実際に投票したのはその半分以下で、その半分以下の六〇%が反対票を投じたのだ。この少数の者と入植者が現在のゴレムを構成している)。

党員投票には、一つだけよい面がある。それは、国民がゴレムの横行に気づいたことだ。入植運動が、国家からどんどん甘い汁を吸い上げ、和平を妨害し、民主主義を危機に追い込み、国の将来を危うくしていることに、ようやく目を向け始めた。

今ならまだゴレムの舌下から紙片を取り出すことができる。まだ手遅れになっていない。今なら間に合うぞ。

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