[コラム] 米中核対決の場と化した朝鮮半島
──渡辺雄三
四月一九日、キム・ジョンイル北朝鮮労働党総書記が訪中、両国の首脳会談が行われ、二一日に帰国しました。この会談についてマスコミから様ざまな解説が流されましたが、どれをとっても私は納得していません。
それは、朝鮮半島を巡って、世界の二大核保有国である米国と中国との間で、既に「共存」の関係が成立している、という事実を無視しているからです。この事実を無視して、今回の中朝首脳会談を語ることは出来ません。
この会談の狙いは、北朝鮮が中国の差し掛けた「核の傘」の下に入ったことを確認し、その事後対策を中朝間で調整するためでした。これで、次の「六者協議」開催を前にして、大きな難関が取り払われました。
元々、二月に行われた六者協議の直前、米中両国は北朝鮮の核開発を阻止するため、画期的な連携行動を行いました。
核濃縮に必要な溶媒を積んだ貨物船が中国海域を航行し、北朝鮮へ向かっている、との情報を掴んだ米国政府は、これを中国政府に伝えます。すると、直ちに中国政府は行動を起こし、その貨物船の荷物を没収します。
この事件は、北朝鮮の核武装を阻止するため、米中両国が手を取り合った一瞬でした。その結果、東アジア地域を巡って朝鮮半島の南北を分断する軍事境界線を挟んで、中国の核と米国の核とが対峙する、という状況になっています。
こうして、東アジア地域で、米中二大核保有国の共存体制が形成された結果、「独立・自衛」を叫び続けてきた北朝鮮は、この伝統的な防衛政策を放棄し、中国の「核の傘」の下に入らざるをえませんでした。
中国政府は北朝鮮の個人独裁体制に不満ですが、市場経済化へと誘導しながら、これを支えていかざるを得ません。でなければ、韓国にある米軍基地が中朝国境間際まで競り上がってしまうからです。
この新たな両国関係の現状を確認し、対応策をすり合わせたのが、今回の中朝首脳会談の目的でした。だが、中朝両国間には、長年のわたる深い感情的なわだかまりが存在しています。
中朝両国間には、長く深い民族的なしがらみが存在しています。中国歴代王朝は朝鮮半島を属領とみなし、圧倒的な軍事力でこの半島を制圧してきました。
朝鮮戦争が起こって、中国は朝鮮半島に出兵しましたが、その後、中朝関係に配慮して、中国は神経を使っています。例えば、両国の関係を表現するのに、中国は「唇歯の関係」という言葉を公式文書で使っています。
私はこれを見た時、奇妙に思いましたが、新中国の政権としては、大量の軍隊を朝鮮へ派遣するに当って、過去の王朝とは違うということを、朝鮮民族にこれで示したかったのでしょう。今回のキム・ジョンイルに対する中国政府の手厚い歓待ぶりを見ても、このことは印象的でした。
だが、朝鮮半島を巡る米中核共存という新たな状況は、直ちに日本に跳ね返ってきます。米国は日本にMD(ミサイル・デフェンス)の配備を求め、これを日本政府は受諾します。
MDとは、日本に向かって飛んで来るミサイルを、レーダーによって空中で捕捉し、これを地上から打ち揚げたミサイルで撃破する仕組みです。これは米国で何回も実験していますが、命中率が低く、信頼性がありません。
こんな信頼性に欠けた兵器を導入するよりも、唯一の被爆国・日本がしなければならないことは、朝鮮半島から米中両国に核兵器退去を求め、ここに非核地帯を設置し、軍事的緊張を緩和していくことでしょう。