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更新日:2004/05/08(土)

[情報] 映画評『HANA-BI』

作品データ

映画評

北野武の映画を見ると、いつもそこに内包されている静と動のアンバランスに、ついつい画面に引き込まれてしまう。バイオレンスとイノセント、残酷さと優しさ、対極にあるもの同士が、一つの映画の中に存在し、そして不思議に調和している。そのコントラストが奏でる、もの寂しく悲劇的な旋律が、一種独特の世界観を作り出しているのだ。

さて「HANA─BI」であるが、これはヴェネチア映画祭で「金獅子賞」を受賞し、北野武の名を国際的に知らしめた作品である。難病で死期の近い妻を持つ刑事の西は、自分の代わりに現場に行った同僚が殉職したことで、心の傷を抱えている。同じ事件で半身不随になった同僚・堀部や、残り時間の少なくなった妻、様々な人への想いに駆られた彼は、廃車屋で見つけたタクシーをパトカーに塗り替え、銀行強盗を計画する。計画に成功し、妻と最後の旅行に出かけた西だったが、借金をしていたやくざが執拗に彼を追い回し……。

全編「キタノブルー」と呼ばれる青っぽい色彩が画面を彩り、西が持つ孤独感や虚無感を引き立てる。容赦なくやくざを殺す一方で、殉職した仲間の家族に金を送ったり、妻にはひょうきんな一面を見せる西の二面性を、ビートたけしが巧みに表現している。

私が好きなのは、車の中で西と妻がトランプをしているシーンだ。妻が裏向けに出したカードを、なぜか西は全部見抜いてしまう。不思議がる妻だったが、実はバックミラーにカードが全部映っていて、西からは丸見えだったのだ。まるで純愛ドラマのように無邪気な二人の戯れのシーン。目をそむけたくなるような銃撃シーンの間に挿入される事によって、そのピュアさがより純度を増して印象に残る。

また、彼が強盗を実行するのに選んだのがパトカーだというのも皮肉が効いている。彼は同僚の死を経て、警察の仕事というものに疑いを感じ始めたのではないだろうか。自分が長年尽くしてきた仕事は、果たして命を落とすに値するぐらい価値のあるものなのだろうか。──そういった彼の迷いと反発が、このシーンに象徴されていると思う。

「北野映画は暴力を助長する」という意見があるが、私はそうは思わない。なぜならそこには痛みがあり、銃で撃たれても血も出ないハリウッド映画とは違い、生身の暴力が描かれているからだ。それを見て促されるのは、むしろ暴力への嫌悪だろう。

ちなみに先日、ヴェネチアで再び賞を獲った最新作「座頭市」を見た。金髪の市やダンスは新鮮だったが、北野映画のいつもの静けさはなく、私としては少し期待はずれだった。次の新作に期待。

(評者・齋藤恵美子)

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