[コラム] 人質家族への嫌がらせの背景/木坂明
まず、高遠菜穂子さんに関する掲示板への書き込みの分析から事件の背景を考える。高遠菜穂子さん自身が編集するホームページの掲示板は、早い段階で閉鎖されたが、関係者のホームページには事件直後から膨大な数の書き込みがされている。例えば四月一四日 一二時一五分には次のような書き込みがされている。
ホント、郡山さんの家族は態度が謙虚になって好感が持てるな。むしろ他の家族と行動を共にしない方がいいぞ?無事に帰ってこられたら、きちんと謝罪会見をしてくれそうだし。(中略)ネットニュースでも、郡山さんのお宅には、いやがらせ電話掛かってないみたいだし(他二人の家には鳴りっ放しらしい)、それどころか激励の電話とか、無事を祈る折鶴とか、届けられてるようだ。好ましいね。
(中略)の部分では、高遠菜穂子さんやその家族の人権を侵害するような表現が書かれている。直接的な嫌がらせ行為をしている主体ではないかと推測されるこの書き込みからもわかるように、嫌がらせされているのは、高遠さんや今井さんに集中している。この背景には、高遠さんが自衛隊派遣に対して明確に反対の意志表明をしていることが密接に関係していると考えられる。
書き込みの内容は、おおまかに三種に分けられる。ある程度真面目な観点から、人質と家族の言動に対して疑問点を抱いているもの。そして、下品で、ただ挑発的で2ちゃんねる流の煽りをしているようなもの。第三に、意図的謀略的に左翼批判に結びつけているようなものである。「極左集団」等の用語が頻繁に登場し、高遠さんが、異端であり少数であり過激分子であるかのような宣伝がされている。
このようなやり口は、市民運動が盛り上がった場合にその妨害行為としてしばしば登場するものではある。ただ、今回の一連の書き込みは、相当の準備をもとに組織的に行っていることが推測される。様々なペンネームを用いて、同じ趣旨の内容のものが何度も書き込みされ、人質の側に共感的な書き込みがあると、執拗に攻撃・挑発がある。家族のプライバシーについてかなり詳細な記述もされている。書き込みは、昼間も夜間も絶え間なくされ、しばしば他のホームページのURLが引用される。時間的に余裕があり、半ば職業的に嫌がらせ行為をしている集団が存在している。
例えば、人民新聞が高遠さん支援の内容の記述をホームページに掲載すると、即座にそれが引用され、「高遠は極左集団・人民新聞の仲間だった!」という情報がインターネットで流されてしまうような緊迫した状況がある。三〇歳代以下の若者がイラク問題に関わっている事実は、自衛隊派遣を強力に推進する側からすれば相当の脅威であったのだろうか。
彼らとマスコミ報道に共通するのは、「テロ」も「人質」になった者も、極めて少数の過激集団であるという執拗なキャンペーンである。ファルージャにおける米軍による大量虐殺テロの事実はほぼ黙殺し、それに対するわずかな抵抗のみを「テロ」と報道されるような状況で、人質とされた若者たちの動きも過激で自業自得の行為であったと決めつけられてしまう可能性がある。
現段階では派兵への反対の声は少数ではないし、情勢次第で多数派になり得る。マスコミ報道に対抗し、人質家族への直接の支援行動やインターネット等あらゆる手段を行使して、過激派キャンペーンを粉砕してゆくことが重要だろう。そうした活動が、真面目な気持ちでイラクの問題に関わっててゆく若者を今後も増やしていくことに結びつくはずだ